どこまで走り続けただろう。
髪はぼさぼさになっていた。
服はドロドロで、靴はボロボロだ。
力が抜けて、膝が折れる―――そして、倒れる。
地面を通じて、早鐘を打つ心臓の音が聞こえる。
「……ああ、まだ生きてるんだ。僕は」
海東大樹が、そう呟いた。
この<世界>は、歪んでいた。
今日、初めてそのことを知った。
今日、初めてそのことを知った。
そして、信じていたもの全てに裏切られ……大樹は、持っていたもの全てを捨て、逃げ出したのだ。
「……僕は……何を信じればいい?」
ひとり問う。だが、誰も答えてはくれない。
ぽつり。顔に暖かな水滴が掛かる。やがてソレは無数の雨粒として、無遠慮に大樹に襲い掛かって来た。
「……僕は、いったい“何”なんだ……」
雨を拭うこともせず、降られるにまかせる大樹。顔を濡らすのは、雨なのか涙なのか。
それは大樹本人にも、解りはしなかった。
それは大樹本人にも、解りはしなかった。
「兄さ……ん」
初めて知らされた、<世界>の本当のこと。
それを知った今…いや、知ったところで、僕に何が出来るのか。
大樹の虚ろな目は、何を映すわけでもなく、ただ、がらんどうであった。
* * *
『侵入者アリ! 侵入者アリ!』
『賊はシークレットルームから、“オブジェクトX”を奪い逃走中! 総員出動! 総力を挙げて確保せよ!!!』
<世界>を支配する男、フォーティーンの居城が騒がしくなる。が、家主はそんな騒動にも何処吹く風で、深々とソファに腰掛けたままであった。
「愚弟をもつと苦労するだろう?」
「いえ、ダメな弟ほど可愛いものです」
満面の笑みで、海東純一がそう言った。
「いえ、ダメな弟ほど可愛いものです」
満面の笑みで、海東純一がそう言った。
「…通達。追跡は中止だ。各員、持ち場に戻りたまえ」
「よろしいのですか?」
確保をあきらめたらしいフォーティーンに純一が尋ねる。
「“アレ”を奪われたんだ。これ以上の追跡は無意味だよ」
フォーティーンは意味ありげに微笑した。
「よろしいのですか?」
確保をあきらめたらしいフォーティーンに純一が尋ねる。
「“アレ”を奪われたんだ。これ以上の追跡は無意味だよ」
フォーティーンは意味ありげに微笑した。
* * *
「はぁ……はぁ……」
奪ったものを胸に抱いたまま、大樹が荒く息を吐き出した。
「これが……<ディエンドライバー>……」
改めてそれを目にする。シアンとブラックを基調とした、銃器のような形。そして、付随するカードホルダーに入っていたカード。
「…はは」
乾いた笑いが、唇を持ち上げる。
「なんだ、意外と簡単だったな」
自分を裏切った<世界>に、一糸報いようとして、大樹が選んだのは、“オブジェクトX”と呼称されていたディエンドライバーを奪うことだった。
フォーティーンの為に動くのではない、自分の意志で動くことで、自分を取戻そうと思ったのだ。
「よかった…これでまだ、“僕”は“僕”でいられる」
呟きが空気に溶けていく。その想いが、まだ仮初めのものであると気付かぬまま。
『イタゾ!』
『海東大樹! 裏切リ者ハ…抹殺スル!』
『海東大樹! 裏切リ者ハ…抹殺スル!』
不意に飛んできた声に、大樹が緊張する。独自に彼を追っていたらしいローチが3体、立ちはだかった。
「……悪いけど、僕の邪魔はさせないよ」
大樹の目が鋭くなる。ディエンドライバーにカードをセットし、構えた。
-KAMENRIDE-
「僕は…僕の意思で、歩いていくんだ。 ……変身!」
-DIEND-
トリガーを引いた瞬間、光の散弾が迸り、それが大樹の姿を変える。
―――<行き止まりを往く者>仮面ライダーディエンド。
-FINAL ATTACKRIDE-
手馴れた動きで、ディエンドライバーに再びカードをセットする。
-DI DI DIEND-
強烈な光の奔流が、ローチを包み込み―――
・
・
・
・
・
「……別の世界、か…」
光のオーロラをくぐり、ひとり呟く。
「そうだな…なにをしようか」
手にしたディエンドライバーを弄りながら自問自答する。
「…うん、決めた」
目に付いた時計台に、指鉄砲をむけ、撃つジェスチャーをしてみせる。
「この<世界>のお宝を奪うんだ。こいつを奪ったように」
いや、この世界だけじゃない。
「僕は…全ての世界のお宝を手に入れる」
それが、“僕”が決めた、僕だけの生き方だ。
言い聞かせるように呟き、大樹は駆け出す。
<通りすがりの仮面ライダー>の物語が、動き出した。
----------------------------------------------
「言っておくけど、僕は君よりずっと前から通りすがりの仮面ライダーだ!」
というわけで、節操無く執筆中のディケイドSSシリーズ。他のライダーほっぽってディエンド編ですよ。
今回もディケイド編と同じく、本編に繋がるプレ・エピソード的なおはなし。厳密に言えば<世界>の真実を知って絶望した大樹がディエンドライバーを得て<通りすがりの仮面ライダー>になるまでのミッシングリンク埋め。
まぁ、いつもながら無茶な電波受信しております。
まぁ、いつもながら無茶な電波受信しております。
でも反省はしない!(しろよ頼むから
7/8追記→「宇宙船」情報より。劇場版ディケイドにて海東がディエンドライバーを入手した経緯が描かれるらしいとの事。…orzせざるをえないorz
サブタイの元ネタはディエンド編後半の「エンド・オブ・ディエンド」のパロディ。むこうが終わりならこっちは始まりなので。
さて、自分の首を絞める次回予告!
…カブトかアギトでやります(それ予告と言わねえ