炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ディケイドSS】-BEGINNING OF DIEND-【ディエンド編】

 どこまで走り続けただろう。

 髪はぼさぼさになっていた。

 服はドロドロで、靴はボロボロだ。

 力が抜けて、膝が折れる―――そして、倒れる。

 地面を通じて、早鐘を打つ心臓の音が聞こえる。


「……ああ、まだ生きてるんだ。僕は」


 海東大樹が、そう呟いた。





   仮面ライダーディケイド/A.R.WORLD STORYS
   EPISODE:DIEND-BEGINNING OF DIEND-





 この<世界>は、歪んでいた。
 今日、初めてそのことを知った。

 そして、信じていたもの全てに裏切られ……大樹は、持っていたもの全てを捨て、逃げ出したのだ。

「……僕は……何を信じればいい?」

 ひとり問う。だが、誰も答えてはくれない。

 ぽつり。顔に暖かな水滴が掛かる。やがてソレは無数の雨粒として、無遠慮に大樹に襲い掛かって来た。

「……僕は、いったい“何”なんだ……」

 雨を拭うこともせず、降られるにまかせる大樹。顔を濡らすのは、雨なのか涙なのか。
 それは大樹本人にも、解りはしなかった。


「兄さ……ん」


 初めて知らされた、<世界>の本当のこと。

 それを知った今…いや、知ったところで、僕に何が出来るのか。

 大樹の虚ろな目は、何を映すわけでもなく、ただ、がらんどうであった。


  * * *


『侵入者アリ! 侵入者アリ!』

『賊はシークレットルームから、“オブジェクトX”を奪い逃走中! 総員出動! 総力を挙げて確保せよ!!!』

 <世界>を支配する男、フォーティーンの居城が騒がしくなる。が、家主はそんな騒動にも何処吹く風で、深々とソファに腰掛けたままであった。

「……彼、かな」
 と、フォーティーンが呟く。その傍らに佇む成年が、笑顔で頷いた。
「……ええ、そうでしょうね」

「愚弟をもつと苦労するだろう?」
「いえ、ダメな弟ほど可愛いものです」
 満面の笑みで、海東純一がそう言った。

「…通達。追跡は中止だ。各員、持ち場に戻りたまえ」
「よろしいのですか?」
 確保をあきらめたらしいフォーティーンに純一が尋ねる。
「“アレ”を奪われたんだ。これ以上の追跡は無意味だよ」
 フォーティーンは意味ありげに微笑した。


  * * *


「はぁ……はぁ……」

 奪ったものを胸に抱いたまま、大樹が荒く息を吐き出した。

「これが……<ディエンドライバー>……」

 改めてそれを目にする。シアンとブラックを基調とした、銃器のような形。そして、付随するカードホルダーに入っていたカード。

「…はは」

 乾いた笑いが、唇を持ち上げる。

「なんだ、意外と簡単だったな」

 自分を裏切った<世界>に、一糸報いようとして、大樹が選んだのは、“オブジェクトX”と呼称されていたディエンドライバーを奪うことだった。

 フォーティーンの為に動くのではない、自分の意志で動くことで、自分を取戻そうと思ったのだ。

「よかった…これでまだ、“僕”は“僕”でいられる」

 呟きが空気に溶けていく。その想いが、まだ仮初めのものであると気付かぬまま。


『イタゾ!』
『海東大樹! 裏切リ者ハ…抹殺スル!』

 不意に飛んできた声に、大樹が緊張する。独自に彼を追っていたらしいローチが3体、立ちはだかった。

「……悪いけど、僕の邪魔はさせないよ」

 大樹の目が鋭くなる。ディエンドライバーにカードをセットし、構えた。

  -KAMENRIDE-

「僕は…僕の意思で、歩いていくんだ。 ……変身!」

  -DIEND-

 トリガーを引いた瞬間、光の散弾が迸り、それが大樹の姿を変える。


 ―――<行き止まりを往く者>仮面ライダーディエンド。


  -FINAL ATTACKRIDE-

 手馴れた動きで、ディエンドライバーに再びカードをセットする。

  -DI DI DIEND-

 強烈な光の奔流が、ローチを包み込み―――








 ・
 ・
 ・

「……別の世界、か…」

 光のオーロラをくぐり、ひとり呟く。

「そうだな…なにをしようか」

 手にしたディエンドライバーを弄りながら自問自答する。

「…うん、決めた」

 目に付いた時計台に、指鉄砲をむけ、撃つジェスチャーをしてみせる。

「この<世界>のお宝を奪うんだ。こいつを奪ったように」

 いや、この世界だけじゃない。

「僕は…全ての世界のお宝を手に入れる」

 それが、“僕”が決めた、僕だけの生き方だ。


 言い聞かせるように呟き、大樹は駆け出す。




 <通りすがりの仮面ライダー>の物語が、動き出した。



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「言っておくけど、僕は君よりずっと前から通りすがりの仮面ライダーだ!」

 というわけで、節操無く執筆中のディケイドSSシリーズ。他のライダーほっぽってディエンド編ですよ。

 今回もディケイド編と同じく、本編に繋がるプレ・エピソード的なおはなし。厳密に言えば<世界>の真実を知って絶望した大樹がディエンドライバーを得て<通りすがりの仮面ライダー>になるまでのミッシングリンク埋め。
 まぁ、いつもながら無茶な電波受信しております。

 でも反省はしない!(しろよ頼むから

 7/8追記→「宇宙船」情報より。劇場版ディケイドにて海東がディエンドライバーを入手した経緯が描かれるらしいとの事。…orzせざるをえないorz

 サブタイの元ネタはディエンド編後半の「エンド・オブ・ディエンド」のパロディ。むこうが終わりならこっちは始まりなので。

 さて、自分の首を絞める次回予告!


 …カブトかアギトでやります(それ予告と言わねえ