穏やかな空気を振り切って、二つの車輪が地面を走っていく。
初夏の日差しを浴びて、並木道はキラキラと輝いて見えた。
初夏の日差しを浴びて、並木道はキラキラと輝いて見えた。
通り過ぎる木々の香りを、胸いっぱいに吸い込んで。
私―――虹野沙希は、もう一度ペダルをこぐ足に力をこめた。
なんとなく、今日はいいことがあるような気がして。
-虹のリトグラフ-
「……ふぅっ」
並木道を通り抜け、池のそばを回って、一息。
さすがにちょっとはしゃぎすぎたかな? ふと額に手を当てると、汗がにじんでいた。
公園をもう一周したら、一度家に戻ろうかな。
そう思って、ペダルに足をかけなおす。
そう思って、ペダルに足をかけなおす。
「…あれ? 虹野さん」
―――と、急に背後から声をかけられて、私の心臓がひっくり返ったような気がした。
振り返らなくてもわかる。
たぶん、今の私が一番よく聞いている声。
たぶん、今の私が一番よく聞いている声。
そして、少し……ううん、とても気になっている人の、声。
「あ、こ、こんにちわっ」
あー、もう。声がうわずってる。落ち着け、落ち着け私。
「サイクリング?」
「え? あ、う、うん」
「そっか。今日は風が気持ちいいもんね」
「え? あ、う、うん」
「そっか。今日は風が気持ちいいもんね」
そう言って、目を閉じて通り過ぎていく風を感じる。
その姿が、とてもさまになっていて、思わず見とれてしまう。
その姿が、とてもさまになっていて、思わず見とれてしまう。
……あ、いけない。
会話、途切れちゃった。
な、なにか話しかけないと行っちゃうかも……。
会話、途切れちゃった。
な、なにか話しかけないと行っちゃうかも……。
「え、ええと、あなたは?」
「ん、俺?」
「そう、そう」
……うぅ、緊張するなぁ……
「ん、俺?」
「そう、そう」
……うぅ、緊張するなぁ……
学校で話したりすることだって、こうやって休みの日にデート…するときは平気なのに。
突然会っちゃったから、なのかな?
突然会っちゃったから、なのかな?
「俺は、ショッピング街のスポーツショップ。ずっと使ってたサッカーシューズがくたびれてきてさ。新しいのを探しにね」
あ、そうだ。と、思い出したように口を開く。
「ねぇ、もしよかったらなんだけど。一緒に行って、見立ててくれないかな?」
「え?」
「え?」
……って、えええ~っ!?
誘われちゃった? 私、誘われちゃった??
ど、どうしよう…。
こんなことなら、もうちょっとおしゃれしとくんだったなぁ……
こんなことなら、もうちょっとおしゃれしとくんだったなぁ……
「……ダメ、かな?」
と、彼の声で我に返る。何も返事しなかったから、ちょっと怪訝そうに見てる。
「あ、う、ううん! 全然! 全然大丈夫! うん。行きましょ」
熱くなった顔を伏せるように俯きながら、自転車を押す。
……だって、きっと真っ赤になってるだろうから。
*
「ところで、目星はつけてあるの?」
「んーと…」
「んーと…」
いくつかのシューズを指差す。どれも結構有名どころのブランド。高校生のお小遣いではちょっと苦しいかもしれない。
「機能性とか良いって聞くんだけどね」
「まぁ、まずは試着してみましょう?」
私の言葉にうなづいて、手近にあったものから順番に履いていく。同じサイズでも、微妙に違うらしく、履いて歩いたり、跳ねたりして感触を確かめていく。
「まぁ、まずは試着してみましょう?」
私の言葉にうなづいて、手近にあったものから順番に履いていく。同じサイズでも、微妙に違うらしく、履いて歩いたり、跳ねたりして感触を確かめていく。
・
・
・
・
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「うーん、これもしっくりこないか……」
好きなブランドなんだけどなぁ、と残念そうに呟きながら、シューズを元の場所に戻す。
「しょうがないよ。それに、時間いっぱい走り回るんだもん。ちゃんと足にぴったり合うものがいいよね」
そういいながら、視線を棚に移す。どれがいいだろう……
好きなブランドなんだけどなぁ、と残念そうに呟きながら、シューズを元の場所に戻す。
「しょうがないよ。それに、時間いっぱい走り回るんだもん。ちゃんと足にぴったり合うものがいいよね」
そういいながら、視線を棚に移す。どれがいいだろう……
「…あ」
と、不意にある一足に目が止まる。真っ白で、ところどころグレーのラインが入ったシャープなイメージのシューズ。
そのシューズを履いている彼のイメージが唐突に浮かんで、気づくと私は、それを手にとって彼の前に出していた。
「?」
「え? あ、その…これとか、どうかな…って」
「え? あ、その…これとか、どうかな…って」
彼がしげしげをシューズを眺める。
…あ、今気づいたけど顔が近い。
意外と…睫毛とか長いんだ。
意外と…睫毛とか長いんだ。
「……ん、ちょっと履いてみるよ」
笑顔でうなづいて、彼の手がふわりとシューズを持っていく。
かるく紐を結んで、2、3歩足踏み。
笑顔でうなづいて、彼の手がふわりとシューズを持っていく。
かるく紐を結んで、2、3歩足踏み。
「…よっと」
足を、ボールを操っているように動かして、ドリブル、リフティング、ターン。
フィールド上の彼の姿がダブって見えた。
「……ん」
やがて、動きが止まる。…もうちょっと見ていたかったかも。
「…虹野さん」
「うん?」
履いていたシューズを見せ、彼がにっこりと笑う。
「うん?」
履いていたシューズを見せ、彼がにっこりと笑う。
「これ、かなりいいよ! すごくしっくりくる。…うん、値段も手ごろだし…これにするかな」
ありがと。ともう一度笑顔を見せて、彼は会計へと向かった。
*
「はい、お礼…にしちゃ簡単なものだけど」
そう言って、缶ジュースを手渡される。
「そんな、私はアドバイスしただけだから…」
「それでも十分。たぶん俺じゃ、決めらんなかったからさ」
ところで…
と言って、彼が私の目を覗き込むように見つめる。
思わず、ドキッとしてしまう。
「なんで、アレを選んだの?」
「え?」
そう言って、缶ジュースを手渡される。
「そんな、私はアドバイスしただけだから…」
「それでも十分。たぶん俺じゃ、決めらんなかったからさ」
ところで…
と言って、彼が私の目を覗き込むように見つめる。
思わず、ドキッとしてしまう。
「なんで、アレを選んだの?」
「え?」
……え、えーと……
「な、なんと…なく………かな?」
「なんとなくかぁ…」
「なんとなくかぁ…」
…い、言えない、よね……
「う、うん。なんとなく、なんとなく」
…………わたしのお気に入りのシューズに、ちょっと似てるから、って。
-fin-
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タイトルはこの曲が収録されているアルバム「虹のリトグラフ」から。
曲からイメージが浮かぶこともしばしばあります。
というか、アイマス曲でも似たようなことが。
いずれ書きたいですねぇ~