炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ときメモSS】虹のリトグラフ【虹野沙希】

 穏やかな空気を振り切って、二つの車輪が地面を走っていく。
 初夏の日差しを浴びて、並木道はキラキラと輝いて見えた。

 通り過ぎる木々の香りを、胸いっぱいに吸い込んで。

 私―――虹野沙希は、もう一度ペダルをこぐ足に力をこめた。




 なんとなく、今日はいいことがあるような気がして。




   -虹のリトグラフ





「……ふぅっ」

 並木道を通り抜け、池のそばを回って、一息。

 さすがにちょっとはしゃぎすぎたかな? ふと額に手を当てると、汗がにじんでいた。

 公園をもう一周したら、一度家に戻ろうかな。
 そう思って、ペダルに足をかけなおす。


「…あれ? 虹野さん」

 ―――と、急に背後から声をかけられて、私の心臓がひっくり返ったような気がした。

 振り返らなくてもわかる。
 たぶん、今の私が一番よく聞いている声。

 そして、少し……ううん、とても気になっている人の、声。

「あ、こ、こんにちわっ」

 あー、もう。声がうわずってる。落ち着け、落ち着け私。

「サイクリング?」
「え? あ、う、うん」
「そっか。今日は風が気持ちいいもんね」

 そう言って、目を閉じて通り過ぎていく風を感じる。
 その姿が、とてもさまになっていて、思わず見とれてしまう。

 ……あ、いけない。
 会話、途切れちゃった。
 な、なにか話しかけないと行っちゃうかも……。

「え、ええと、あなたは?」
「ん、俺?」
「そう、そう」
 ……うぅ、緊張するなぁ……

 学校で話したりすることだって、こうやって休みの日にデート…するときは平気なのに。
 突然会っちゃったから、なのかな?

「俺は、ショッピング街のスポーツショップ。ずっと使ってたサッカーシューズがくたびれてきてさ。新しいのを探しにね」

 あ、そうだ。と、思い出したように口を開く。

「ねぇ、もしよかったらなんだけど。一緒に行って、見立ててくれないかな?」
「え?」

 ……って、えええ~っ!?

 誘われちゃった? 私、誘われちゃった??

 ど、どうしよう…。
 こんなことなら、もうちょっとおしゃれしとくんだったなぁ……

「……ダメ、かな?」

 と、彼の声で我に返る。何も返事しなかったから、ちょっと怪訝そうに見てる。

「あ、う、ううん! 全然! 全然大丈夫! うん。行きましょ」

 熱くなった顔を伏せるように俯きながら、自転車を押す。

 ……だって、きっと真っ赤になってるだろうから。


   *


 到着したスポーツショップで、まずは物色。
 移動中にサイズとかいろいろ聞いておいたので、まずそこから悩む心配はない。

「ところで、目星はつけてあるの?」
「んーと…」

 いくつかのシューズを指差す。どれも結構有名どころのブランド。高校生のお小遣いではちょっと苦しいかもしれない。

「機能性とか良いって聞くんだけどね」
「まぁ、まずは試着してみましょう?」
 私の言葉にうなづいて、手近にあったものから順番に履いていく。同じサイズでも、微妙に違うらしく、履いて歩いたり、跳ねたりして感触を確かめていく。


 ・
 ・
 ・

「うーん、これもしっくりこないか……」
 好きなブランドなんだけどなぁ、と残念そうに呟きながら、シューズを元の場所に戻す。
「しょうがないよ。それに、時間いっぱい走り回るんだもん。ちゃんと足にぴったり合うものがいいよね」
 そういいながら、視線を棚に移す。どれがいいだろう……

「…あ」

 と、不意にある一足に目が止まる。真っ白で、ところどころグレーのラインが入ったシャープなイメージのシューズ。

 そのシューズを履いている彼のイメージが唐突に浮かんで、気づくと私は、それを手にとって彼の前に出していた。

「?」
「え? あ、その…これとか、どうかな…って」

 彼がしげしげをシューズを眺める。

 …あ、今気づいたけど顔が近い。
 意外と…睫毛とか長いんだ。

「……ん、ちょっと履いてみるよ」
 笑顔でうなづいて、彼の手がふわりとシューズを持っていく。
 かるく紐を結んで、2、3歩足踏み。

「…よっと」

 足を、ボールを操っているように動かして、ドリブル、リフティング、ターン。

 フィールド上の彼の姿がダブって見えた。

「……ん」

 やがて、動きが止まる。…もうちょっと見ていたかったかも。

「…虹野さん」
「うん?」
 履いていたシューズを見せ、彼がにっこりと笑う。

「これ、かなりいいよ! すごくしっくりくる。…うん、値段も手ごろだし…これにするかな」

 ありがと。ともう一度笑顔を見せて、彼は会計へと向かった。


   *


「はい、お礼…にしちゃ簡単なものだけど」
 そう言って、缶ジュースを手渡される。
「そんな、私はアドバイスしただけだから…」
「それでも十分。たぶん俺じゃ、決めらんなかったからさ」
 ところで…
 と言って、彼が私の目を覗き込むように見つめる。
 思わず、ドキッとしてしまう。
「なんで、アレを選んだの?」
「え?」

 ……え、えーと……

「な、なんと…なく………かな?」
「なんとなくかぁ…」

 …い、言えない、よね……

「う、うん。なんとなく、なんとなく」




 …………わたしのお気に入りのシューズに、ちょっと似てるから、って。



   -fin-



--------------------------------

 ときめきメモリアル。それも1で二次創作なんぞ何年ぶりじゃろか。
 まぁ思いついたんだからいいじゃない。ってことで。

 今回のヒロインは、元祖俺の嫁虹野沙希
 思えば、ときめきメモリアルに出会い、彼女に出会い。そこから俺の人生が大きくヲタに傾倒していったなァ……

 イメージソースは虹野沙希(CV菅原祥子)が歌っている「白いTシャツとスニーカー」から。


 タイトルはこの曲が収録されているアルバム「虹のリトグラフ」から。

 曲からイメージが浮かぶこともしばしばあります。

 というか、アイマス曲でも似たようなことが。

 いずれ書きたいですねぇ~