―――意識の向こう側から、けたたましい電子アラームが鼓膜を震わせる。
…るっさいなもぉ……
しょぼついた瞳を持ち上げ、かすむ視界で目覚ましを探し、停める。
さて、もう一眠……ん?
視線の端がわずかに捕らえた時刻を思い出し、再び目を開く。こんどははっきりとした視界に、ディジタルの時刻表示が飛び込んできた。
「……げ!」
まずい、予備校の時間に間に合わない!
ベッドから転げ落ちるように起き、クロゼットの中を引っ掻き回して……はたと気づく。
机の上に転がしている携帯電話を開くと、カレンダーは日曜を示していた。
「……なんだ、休みか」
どんっ!
「…ん?」
突然、階下から響いた派手な物音に意識を引っ張り出される。
「なんだ…こんな朝っぱらから…?」
綾でも暴れているのかと思って部屋に行ってみたが、ノックすると眠たそうな返事が返ってきた。
じゃあ誰だ…?
好奇心と、ちょうど空いてきたお腹を抱え、俺は階段を下りるのだった。
下に行くにつれ、先の物音はどんどん派手になっているようだった。
その所在が台所にあると気づいた俺は、こっそり頭だけ出して覗き込んでみる。
その所在が台所にあると気づいた俺は、こっそり頭だけ出して覗き込んでみる。
…あ。
テーブルに白く丸い塊を押し付けながら、少女がうんうん唸っていた。
さっきの音はアレをテーブルに叩きつける音だったらしい。
さっきの音はアレをテーブルに叩きつける音だったらしい。
「こねこの~パンやさんは~ こねこね~じょうず~♪」
鼻歌なんか歌いながら、塊をこねくり回し、よいしょと持ち上げて叩きつけていく。…なんか楽しそうだ。
鼻歌なんか歌いながら、塊をこねくり回し、よいしょと持ち上げて叩きつけていく。…なんか楽しそうだ。
「……んしょっ、…ええと…こんな感じ…かな?」
「あえか?」
「あえか?」
俺がふと名前を呟くと、びくっと体を震わせたあえかが恐る恐るこっちに顔を向けた。
「あ、お…おはよう、公平くんっ」
「あ…うん、おはよ」
あえかの格好を上から下まで眺める。いつもの青いエプロンドレスが、粉で真っ白だ。それは顔も同じで、俺の視線に気づいたあえかが、はずかしそうにぬぐっていた。
「あ…うん、おはよ」
あえかの格好を上から下まで眺める。いつもの青いエプロンドレスが、粉で真っ白だ。それは顔も同じで、俺の視線に気づいたあえかが、はずかしそうにぬぐっていた。
「あ、ひょっとして起こしちゃった? ごめんね」
「あ、気にしないで。平日と間違えて飛び起きただけだから」
「あ、気にしないで。平日と間違えて飛び起きただけだから」
…で、なにやってんの? と問いかけると、あえかがはにかんで呟いた。
「あの…ね、パン、作ってみようかな……って」
「……ああ」
「……ああ」
街のパン屋で働くようになったあえかだが、しばらくは店の清掃が主な仕事らしい。
こりゃあえかの手作りパンが食べられるのは先の話だな…と思っていたんだが。
こりゃあえかの手作りパンが食べられるのは先の話だな…と思っていたんだが。
「さすがに、お店でってわけにはいかないけど、家で作ってみる分にはいいかなって。ほら、練習もしないとでしょ?」
「そうだな」
俺がそう言うと、あえかがふわりと微笑む。
「そうだな」
俺がそう言うと、あえかがふわりと微笑む。
……うん、やっぱりかわいい。
などと、何度も何度も実感してしまう。
これも、ほれた弱みってやつかもしれない。
などと、何度も何度も実感してしまう。
これも、ほれた弱みってやつかもしれない。
「…で、どこまで進んだんだ、これ?」
テーブルの上に鎮座するパン生地をみる。あえかの肌のようにまっしろなそれは、やはりあえかの肌のように柔らかく、すべすべしていた。
テーブルの上に鎮座するパン生地をみる。あえかの肌のようにまっしろなそれは、やはりあえかの肌のように柔らかく、すべすべしていた。
「うん、ちょっと寝かせて発酵させたら、小分けにして、オーブンで焼くの」
本屋で買ってきたらしい簡単なパンのレシピ本を見せながら説明してくれる。
「そっか。じゃ、できるのはもうちょっと先だな」
「うん、さすがに朝食には間に合わないかも。ごめんね」
「いや、いいって」
「うん、さすがに朝食には間に合わないかも。ごめんね」
「いや、いいって」
おいしくできたらいいなぁ…と笑って、パン生地を入れたボウルにラップをかける。
その横顔がたまらなく愛おしくて……
「…ひゃっ」
思わず、後ろから抱きしめてしまう。
「や…だめだよ。私いま汚れてるから…」
あえかの小さな抵抗を無視して、きゅっと力をこめる。
「………もぉ」
やがて、あえかも拒むことを止め、体重を俺に預けてきた。
「……ねぇ、公平くん」
「ん?」
「ん?」
ふっと、耳元にあえかの吐息がかかる。
「……幸せ、だよ」
「ああ。俺も」
「ああ。俺も」
あえかの髪をくしゃりと撫で、俺はそう応える。
「俺も、すごく幸せだ」
つらいこととか、いっぱいあったけど。
今は、もうそんなことがどうだってよくなるくらいに。
「幸せすぎて………私、ね?」
「うん?」
「うん?」
怖い、なんて言うのかな…と思えば。
「幸せ」
「…なんだそりゃ」
「…なんだそりゃ」
幸せすぎて、幸せ……か。
なんか、いいな。
「……あえか」
「公平、くん……」
「公平、くん……」
至極自然に、俺とあえかの顔が…唇が近づいて……
「……朝っぱらからお暑い事で」
「「!!?」」
いつの間にか降りてきていた綾がジト目で俺たちを見ていた。
「まぁ、仲がいいのはいいことだけど。あんまり見せ付けないでよね~」
ひらひらと手を振りながら、冷蔵庫から牛乳を取り出してリビングに引っ込んでいく。
「……ぷっ」
「…はは」
どちらからともなく噴出し、笑う。
「…さて、どうする? 今日は予備校も休みだし、あえかも休みなんだっけ?」
「あ、うん」
「あ、うん」
それじゃ…
「どっか、遊びに行こうか」
「うんっ」
「うんっ」
満開の桜のような微笑みで、あえかがうなづく。
「じゃ、私着替えてくるね」
「ああ。また後で」
「ああ。また後で」
抱きしめていた腕を解き、髪にそっと口づけ。
あえかが照れて「お返しっ」と頬にキス。
あえかが照れて「お返しっ」と頬にキス。
「公平くんも、早く着替えてね~」
唇の触れた頬に手を当てながら、おう、と返す。
台所の窓越しに見上げた空は、今日も底抜けに青かった。
-fin-
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ゆーめみーるーせーかーいーにー さよーならーしーよーうかー
…てなわけで、今回の題材は「ユメミルクスリ」。
rufのエロゲであります。
興味を持ったらぜひやってみろ! …とは、ちょっと言いづらい作品なのですが(滝汗
や、エロゲだからじゃなくてね。
なんつーかこう……重かったりするので。いろいろ。
rufのエロゲであります。
興味を持ったらぜひやってみろ! …とは、ちょっと言いづらい作品なのですが(滝汗
や、エロゲだからじゃなくてね。
なんつーかこう……重かったりするので。いろいろ。
手放しで薦めるにはちょいと抵抗がありますね(汗
さて、そのヒロインのうちの一人、白木あえかのED後日談なわけです。
このゲームを進めてくれたマイミクのKao氏のリクエストもあったので。
ホントは他の作品書くつもりで、これは後日にしようかなーと思ってたんですが、仕事中にネタが浮かんで(仕事しろ)、気がついたらこれしか頭になかったというw
恐るべし、クスリマジック(違
はてさて、彼が望んだシロモノになっているかどうかは…わかりませんけどねぃ(滝汗
(初出:2009年09月08日06:25>mixi日記)