…一方、空を舞うドラゴンフェザー。
傍目には軽やかに飛んでいるようではあったが、コックピット内のユウキ本人は、正直いっぱいいっぱいであった。
「……っはぁ、はぁ、はぁ…っく」
握りつぶさんばかりの勢いで操縦桿を掴み、肩で息をする。
(こ……これが、本物の……空)
キャノピー越しに見る世界は、360度青い空。
気を抜くと、一気に意識を失ってしまいそうになる。
気を抜くと、一気に意識を失ってしまいそうになる。
『…ユウキくん!?』
「?! は、はいっ!」
『よかった、何度声かけてもなにも返事しないんだもん。…大丈夫?』
先ほど聞いた声だ。確か、A.N.G.E.L.のチーフとかいう人物だったか。そのチームの名前は小耳に挟んでいた程度で、どれほどの規模なのかはさっぱり知らなかった。
「?! は、はいっ!」
『よかった、何度声かけてもなにも返事しないんだもん。…大丈夫?』
先ほど聞いた声だ。確か、A.N.G.E.L.のチーフとかいう人物だったか。そのチームの名前は小耳に挟んでいた程度で、どれほどの規模なのかはさっぱり知らなかった。
「な、なんとか…いえ、全然大丈夫です」
こみ上げそうになった吐き気を無理矢理抑えこみ、しっかりした声でそう伝える。見も知らずな自分を当てにしてくれているのだ。それに応えなくてはならない。
こみ上げそうになった吐き気を無理矢理抑えこみ、しっかりした声でそう伝える。見も知らずな自分を当てにしてくれているのだ。それに応えなくてはならない。
『わかったわ。じゃ、こっちから仕掛けるから。攻撃のタイミングは、サヨちゃん…さっき通信割り込んできたコね…彼女から指示が来るから、それに合わせて』
「了解!」
『…んー、惜しいなァ』
「?」
急に口調が変わる声に面食らうユウキ。
『私たちの“了解”は、“A・I・G”よ。憶えといてね』
「は、はぁ…」
『ハイ復唱!』
「え、A・I・G!!」
あわてて返すと、声の主は満足そうに頷いているようだった。
「了解!」
『…んー、惜しいなァ』
「?」
急に口調が変わる声に面食らうユウキ。
『私たちの“了解”は、“A・I・G”よ。憶えといてね』
「は、はぁ…」
『ハイ復唱!』
「え、A・I・G!!」
あわてて返すと、声の主は満足そうに頷いているようだった。
『…まったく、素人さんに変なこと強要させないの……っと、聞こえる? アマツ・ユウキくん」
チーフ…最後にオウカ・サクラコと名乗った…との通信に続けて飛び込んだ声は、先ほどの声にも負けない凛とした張りがあった。
「はい。ええと…」
『リキマル・サヨよ。一応、A.N.G.E.L.のサブチーフというポジションにいるわ。早速だけど、今後の攻撃は私の指示に合わせて』
どことなく、事務的な淡々とした声が耳朶を打つ。なんというか、サブチーフっぽい。というのがユウキの感想であった。
「あ、はい。…じゃなくて、A・I・G」
『…ムリに言わなくていいから』
「はい。ええと…」
『リキマル・サヨよ。一応、A.N.G.E.L.のサブチーフというポジションにいるわ。早速だけど、今後の攻撃は私の指示に合わせて』
どことなく、事務的な淡々とした声が耳朶を打つ。なんというか、サブチーフっぽい。というのがユウキの感想であった。
「あ、はい。…じゃなくて、A・I・G」
『…ムリに言わなくていいから』
*
「みんな、準備はいい?」
パンツァーファウストを構えたサクラコの問いかけに、メンバーが思い思いに答える。
カスミは榴弾砲をセットし、アイ・マイ・ミイは三人がかりで対物ライフルを抱えていた。
「一斉に、怪獣の足めがけて掃射。ダメージは期待しないから、とにかく撃ちまくって、相手の注意をこっちにそらすの」
「そしたら、その隙を狙ってあの男の子が攻撃するって寸法ですね」
アイがうなずいて、照準を怪獣の前足に合わせる。
「……」
と、サクラコの視線が、憮然とした表情のカスミを捉える。
「大丈夫よ」
そう声をかけ、にっこりと笑ってみせる。
「心配なんでしょ? あのコのこと」
「ちっ、違います! さっきも言いましたが、いくら非常時とはいえ…」
顔を真っ赤にして抗議するカスミを、サクラコはまぁまぁと諌め、肩に手を置いた。
「…非常時だからこそ、よ。私たちは、少ない人員でできることをしなければいけないの」
その表情は、いつもカスミが目にするサクラコのもとのは違い、清濁を飲み合わせた、大人のそれであった。
パンツァーファウストを構えたサクラコの問いかけに、メンバーが思い思いに答える。
カスミは榴弾砲をセットし、アイ・マイ・ミイは三人がかりで対物ライフルを抱えていた。
「一斉に、怪獣の足めがけて掃射。ダメージは期待しないから、とにかく撃ちまくって、相手の注意をこっちにそらすの」
「そしたら、その隙を狙ってあの男の子が攻撃するって寸法ですね」
アイがうなずいて、照準を怪獣の前足に合わせる。
「……」
と、サクラコの視線が、憮然とした表情のカスミを捉える。
「大丈夫よ」
そう声をかけ、にっこりと笑ってみせる。
「心配なんでしょ? あのコのこと」
「ちっ、違います! さっきも言いましたが、いくら非常時とはいえ…」
顔を真っ赤にして抗議するカスミを、サクラコはまぁまぁと諌め、肩に手を置いた。
「…非常時だからこそ、よ。私たちは、少ない人員でできることをしなければいけないの」
その表情は、いつもカスミが目にするサクラコのもとのは違い、清濁を飲み合わせた、大人のそれであった。
「…さ、お喋りしてる時間も惜しいわ」
カスミを促し、自らの所定の位置に戻る。
「いくわよ………撃てぇーーーーーーッ!!!」
その雄たけびを合図に、近代兵器の粋が片っ端から火を噴く。
轟音が轟き、怪獣の足元を衝撃が鈍く揺らした。
轟音が轟き、怪獣の足元を衝撃が鈍く揺らした。
―――グルゥゥゥゥ…
「! 怪獣がこっち向いた!」
「今よ、アマツくん!」
「今よ、アマツくん!」
サヨの声がスピーカーごしに耳朶を打ち、ユウキは咄嗟に操縦桿を押し込む。木の葉のように待った銀翼が、一気に怪獣の頭部めがけて急降下し―――
「いけえっ!」
機首に備わったバルカン砲を放つ。ばら撒かれた鋼鉄の弾丸が、雨のように降り注ぎ、怪獣の目をえぐる。
「当てた!」
「やったぁ!」
「やったぁ!」
金切り声のような咆哮を上げ、怪獣が頭を振り回す。
『…! 怪獣から高エネルギー反応! ドラゴンフェザー、気をつけてください!』
不意に、スピーカーからかわいらしい声が響き渡る。キャノピー越しに怪獣を見ると、口元が赤く光り始めた。
「やば……!」
不意に、スピーカーからかわいらしい声が響き渡る。キャノピー越しに怪獣を見ると、口元が赤く光り始めた。
「やば……!」
あわてて操縦桿を操り、機体を捻らせる。続けざまに放たれた2発の溶岩弾は、機体に当たることなく通り過ぎ、ややあって、自らの熱で蒸発した。
「……こちらドラゴンフェザー。攻撃には成功したようですが、たいしたダメージにはなってないみたいです。もういちど、お願いできますか?」
『オッケー、まかせといて!』
サクラコの声には、わずかに焦燥が混じっていた。
『オッケー、まかせといて!』
サクラコの声には、わずかに焦燥が混じっていた。
「みんな、もう一度行くわよ…!」
携行している火器に次弾を装填し、再び脚部を狙う。
「…チーフ、怪獣の足…」
「あ、ヒビ入ってる!」
マイの指摘に、カスミも気づく。
「…そうか。怪獣とはいえ、体自体は岩石そのもの。だったら!」
「しこたまぶっ放せば、砕けもするってことね。よおっし、みんな! 目標、脚部ひび割れ! 撃てぇぇぇぇぇっ!!!」
携行している火器に次弾を装填し、再び脚部を狙う。
「…チーフ、怪獣の足…」
「あ、ヒビ入ってる!」
マイの指摘に、カスミも気づく。
「…そうか。怪獣とはいえ、体自体は岩石そのもの。だったら!」
「しこたまぶっ放せば、砕けもするってことね。よおっし、みんな! 目標、脚部ひび割れ! 撃てぇぇぇぇぇっ!!!」
再び重火器が吼え、熱を伴った質量が波のように怪獣の足を叩く。
「と、ど、めぇぇぇぇっ!!!」
最後にサクラコがよたよたと担ぎ上げたミサイルランチャーが火を噴き、四度、爆音が轟いた。
最後にサクラコがよたよたと担ぎ上げたミサイルランチャーが火を噴き、四度、爆音が轟いた。
怪獣が唸り、ぐらり、とその体が傾いた。
「やった…?」
「怪獣の右前足、破壊! バランスを崩しています!」
「怪獣の右前足、破壊! バランスを崩しています!」
ややあって、支えを失った巨体は、地響きとともに倒れた。
「よしっ!」
思わずガッツポーズをとるサクラコ。アイたち三つ子もハイタッチで喜び合う。
思わずガッツポーズをとるサクラコ。アイたち三つ子もハイタッチで喜び合う。
「さて、じゃああとはユウキくんに…」
「!? 待って! 怪獣から再度高エネルギー反応!」
「え?」
「!? 待って! 怪獣から再度高エネルギー反応!」
「え?」
怪獣に視線を向ける。その口元が赤熱化し、溶岩弾を放とうとしているのがみてとれた。
そして、その矛先は…
そして、その矛先は…
「まさか、こっちを狙ってる―――!?」
その場にいた全員が、息を呑んだ。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そこへ、ユウキの操るドラゴンフェザーが突っ込む。
「吐かせて、たまるかぁっ!!!」
ロックをはずし、ミサイル発射のキーを強く押し込む。乾いた音をたて、二発のミサイルが滑り込むように怪獣の口元へ突っ込み、大爆発を起こした。
ロックをはずし、ミサイル発射のキーを強く押し込む。乾いた音をたて、二発のミサイルが滑り込むように怪獣の口元へ突っ込み、大爆発を起こした。
「きゃあっ!!!」
その爆風で倒れるA.N.G.E.L.メンバーたち。だが、起こりえたかもしれない惨事を考えると、打ち身程度で済んだのは奇跡といえた。
「ユ、ユウキくん……」
『大丈夫ですか!?』
「な、なんとかね……。それにしても、お手柄よ」
ぐっ、とサムズアップをみせるサクラコの姿が、モニターに映し出された。
『大丈夫ですか!?』
「な、なんとかね……。それにしても、お手柄よ」
ぐっ、とサムズアップをみせるサクラコの姿が、モニターに映し出された。
「よかった…無我夢中だったから」
安堵の息を漏らすユウキ。
『! 再び、怪獣から高エネルギー反応です!』
チアキの焦燥を帯びた声がスピーカーを震わせる。怪獣の首が、今度は再びドラゴンフェザーに照準を合わせていた。
咆哮とともに、まるでヤケクソのように溶岩弾を乱射する怪獣。
安堵の息を漏らすユウキ。
『! 再び、怪獣から高エネルギー反応です!』
チアキの焦燥を帯びた声がスピーカーを震わせる。怪獣の首が、今度は再びドラゴンフェザーに照準を合わせていた。
咆哮とともに、まるでヤケクソのように溶岩弾を乱射する怪獣。
「うわ、うわ、うわうわうわぁっ!」
なんとか旋回して交わすユウキであったが、緊張の連続で、精神的にも肉体的にも、疲労はピークに達していた。
「…はぁっ、はぁっ……」
そして、わずかに動きが鈍る。眼前に迫る溶岩弾を、ギリギリのところで回避した刹那、それは起こった。
「しまっ……」
それは、あるいは先刻クドウが乗っていた際、攻撃を受けた際に負っていた障害だったのかもしれない。ドラゴンフェザーの右エンジンが、突然止まってしまったのだ。
失速し、地面に向けて大きく傾く翼。
「うわ………」
もはや、悲鳴すら出なかった。
口の中がカラカラに乾いていた。
キャノピー越しに、怪獣がこちらを狙って溶岩弾を放とうとしているのが見えた。
(ダメ…なのか……?)
思わず、目をぎゅっと閉じた。
・
・
・
・
・
が、溶岩弾の強烈な熱気も、衝突による衝撃もこない。
「……?」
恐る恐る目を開く。
「……!!?」
思わず、目を疑った。
キャノピーで区切られた視界に移るのは、銀色の顔。
傷ついた龍の翼は、大きな手で掬い取るように支えられて。
「青い……巨人?」
サクラコが、呆然と呟いた。
-つづく-
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…いや、多少なりとも削れば良いんでしょうがw
長々と書いてしまうのも考え物です。