炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

EP:01/シーン09

 …一方、空を舞うドラゴンフェザー。

 傍目には軽やかに飛んでいるようではあったが、コックピット内のユウキ本人は、正直いっぱいいっぱいであった。

「……っはぁ、はぁ、はぁ…っく」

 握りつぶさんばかりの勢いで操縦桿を掴み、肩で息をする。

(こ……これが、本物の……空)

 キャノピー越しに見る世界は、360度青い空。
 気を抜くと、一気に意識を失ってしまいそうになる。

『…ユウキくん!?』
「?! は、はいっ!」
『よかった、何度声かけてもなにも返事しないんだもん。…大丈夫?』
 先ほど聞いた声だ。確か、A.N.G.E.L.のチーフとかいう人物だったか。そのチームの名前は小耳に挟んでいた程度で、どれほどの規模なのかはさっぱり知らなかった。

「な、なんとか…いえ、全然大丈夫です」
 こみ上げそうになった吐き気を無理矢理抑えこみ、しっかりした声でそう伝える。見も知らずな自分を当てにしてくれているのだ。それに応えなくてはならない。

『わかったわ。じゃ、こっちから仕掛けるから。攻撃のタイミングは、サヨちゃん…さっき通信割り込んできたコね…彼女から指示が来るから、それに合わせて』
「了解!」
『…んー、惜しいなァ』
「?」
 急に口調が変わる声に面食らうユウキ。
『私たちの“了解”は、“A・I・G”よ。憶えといてね』
「は、はぁ…」
『ハイ復唱!』
「え、A・I・G!!」
 あわてて返すと、声の主は満足そうに頷いているようだった。

『…まったく、素人さんに変なこと強要させないの……っと、聞こえる? アマツ・ユウキくん」

 チーフ…最後にオウカ・サクラコと名乗った…との通信に続けて飛び込んだ声は、先ほどの声にも負けない凛とした張りがあった。
「はい。ええと…」
『リキマル・サヨよ。一応、A.N.G.E.L.のサブチーフというポジションにいるわ。早速だけど、今後の攻撃は私の指示に合わせて』
 どことなく、事務的な淡々とした声が耳朶を打つ。なんというか、サブチーフっぽい。というのがユウキの感想であった。
「あ、はい。…じゃなくて、A・I・G」
『…ムリに言わなくていいから』


   *


「みんな、準備はいい?」
 パンツァーファウストを構えたサクラコの問いかけに、メンバーが思い思いに答える。
 カスミは榴弾砲をセットし、アイ・マイ・ミイは三人がかりで対物ライフルを抱えていた。
「一斉に、怪獣の足めがけて掃射。ダメージは期待しないから、とにかく撃ちまくって、相手の注意をこっちにそらすの」
「そしたら、その隙を狙ってあの男の子が攻撃するって寸法ですね」
 アイがうなずいて、照準を怪獣の前足に合わせる。
「……」
 と、サクラコの視線が、憮然とした表情のカスミを捉える。
「大丈夫よ」
 そう声をかけ、にっこりと笑ってみせる。
「心配なんでしょ? あのコのこと」
「ちっ、違います! さっきも言いましたが、いくら非常時とはいえ…」
 顔を真っ赤にして抗議するカスミを、サクラコはまぁまぁと諌め、肩に手を置いた。
「…非常時だからこそ、よ。私たちは、少ない人員でできることをしなければいけないの」
 その表情は、いつもカスミが目にするサクラコのもとのは違い、清濁を飲み合わせた、大人のそれであった。

「…さ、お喋りしてる時間も惜しいわ」

 カスミを促し、自らの所定の位置に戻る。

「いくわよ………撃てぇーーーーーーッ!!!」

 その雄たけびを合図に、近代兵器の粋が片っ端から火を噴く。
 轟音が轟き、怪獣の足元を衝撃が鈍く揺らした。


   ―――グルゥゥゥゥ…


「! 怪獣がこっち向いた!」
「今よ、アマツくん!」

 サヨの声がスピーカーごしに耳朶を打ち、ユウキは咄嗟に操縦桿を押し込む。木の葉のように待った銀翼が、一気に怪獣の頭部めがけて急降下し―――

「いけえっ!」

 機首に備わったバルカン砲を放つ。ばら撒かれた鋼鉄の弾丸が、雨のように降り注ぎ、怪獣の目をえぐる。

「当てた!」
「やったぁ!」

 金切り声のような咆哮を上げ、怪獣が頭を振り回す。

『…! 怪獣から高エネルギー反応! ドラゴンフェザー、気をつけてください!』
 不意に、スピーカーからかわいらしい声が響き渡る。キャノピー越しに怪獣を見ると、口元が赤く光り始めた。
「やば……!」

 あわてて操縦桿を操り、機体を捻らせる。続けざまに放たれた2発の溶岩弾は、機体に当たることなく通り過ぎ、ややあって、自らの熱で蒸発した。

「…っぶねぇ……」
 コンソールのメインモニターに拡大映像を呼び出す。怪獣の目は命中したのか赤く充血したようにはなっていたものの、変わらず視界は生きているようであった。

「……こちらドラゴンフェザー。攻撃には成功したようですが、たいしたダメージにはなってないみたいです。もういちど、お願いできますか?」
『オッケー、まかせといて!』
 サクラコの声には、わずかに焦燥が混じっていた。

「みんな、もう一度行くわよ…!」
 携行している火器に次弾を装填し、再び脚部を狙う。
「…チーフ、怪獣の足…」
「あ、ヒビ入ってる!」
 マイの指摘に、カスミも気づく。
「…そうか。怪獣とはいえ、体自体は岩石そのもの。だったら!」
「しこたまぶっ放せば、砕けもするってことね。よおっし、みんな! 目標、脚部ひび割れ! 撃てぇぇぇぇぇっ!!!」

 再び重火器が吼え、熱を伴った質量が波のように怪獣の足を叩く。

「と、ど、めぇぇぇぇっ!!!」
 最後にサクラコがよたよたと担ぎ上げたミサイルランチャーが火を噴き、四度、爆音が轟いた。

 怪獣が唸り、ぐらり、とその体が傾いた。

「やった…?」
「怪獣の右前足、破壊! バランスを崩しています!」

 ややあって、支えを失った巨体は、地響きとともに倒れた。

「よしっ!」
 思わずガッツポーズをとるサクラコ。アイたち三つ子もハイタッチで喜び合う。

「さて、じゃああとはユウキくんに…」
「!? 待って! 怪獣から再度高エネルギー反応!」
「え?」

 怪獣に視線を向ける。その口元が赤熱化し、溶岩弾を放とうとしているのがみてとれた。
 そして、その矛先は…

「まさか、こっちを狙ってる―――!?」

 その場にいた全員が、息を呑んだ。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 そこへ、ユウキの操るドラゴンフェザーが突っ込む。

「吐かせて、たまるかぁっ!!!」
 ロックをはずし、ミサイル発射のキーを強く押し込む。乾いた音をたて、二発のミサイルが滑り込むように怪獣の口元へ突っ込み、大爆発を起こした。

「きゃあっ!!!」

 その爆風で倒れるA.N.G.E.L.メンバーたち。だが、起こりえたかもしれない惨事を考えると、打ち身程度で済んだのは奇跡といえた。

「ユ、ユウキくん……」
『大丈夫ですか!?』
「な、なんとかね……。それにしても、お手柄よ」
 ぐっ、とサムズアップをみせるサクラコの姿が、モニターに映し出された。

「よかった…無我夢中だったから」
 安堵の息を漏らすユウキ。
『! 再び、怪獣から高エネルギー反応です!』
 チアキの焦燥を帯びた声がスピーカーを震わせる。怪獣の首が、今度は再びドラゴンフェザーに照準を合わせていた。
 咆哮とともに、まるでヤケクソのように溶岩弾を乱射する怪獣。

「うわ、うわ、うわうわうわぁっ!」

 なんとか旋回して交わすユウキであったが、緊張の連続で、精神的にも肉体的にも、疲労はピークに達していた。

「…はぁっ、はぁっ……」

 そして、わずかに動きが鈍る。眼前に迫る溶岩弾を、ギリギリのところで回避した刹那、それは起こった。

「しまっ……」

 それは、あるいは先刻クドウが乗っていた際、攻撃を受けた際に負っていた障害だったのかもしれない。ドラゴンフェザーの右エンジンが、突然止まってしまったのだ。

 失速し、地面に向けて大きく傾く翼。

「うわ………」

 もはや、悲鳴すら出なかった。

 口の中がカラカラに乾いていた。

 キャノピー越しに、怪獣がこちらを狙って溶岩弾を放とうとしているのが見えた。

(ダメ…なのか……?)

 思わず、目をぎゅっと閉じた。


 ・
 ・
 ・


 が、溶岩弾の強烈な熱気も、衝突による衝撃もこない。

「……?」

 恐る恐る目を開く。


「……!!?」

 思わず、目を疑った。


 キャノピーで区切られた視界に移るのは、銀色の顔。

 傷ついた龍の翼は、大きな手で掬い取るように支えられて。


「青い……巨人?」

 サクラコが、呆然と呟いた。



   -つづく-


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 なんか今日は長いw
 というか、ここらへんで切ろうかな…ってところはいくつかあったんですが、やっぱりウルトラマンを出したかったのでここまで引っ張りました。

 …いや、多少なりとも削れば良いんでしょうがw


 長々と書いてしまうのも考え物です。




 さてさてさて。
 スパークとは違い、ウルトラマンに文字通り救われたユウキ。

 あれ? ユウキ=ウルトラマンじゃなかったっけ?
 その辺は、次回以降で。