それは、唐突であった。
Dr.ヘル一派の侵攻が途絶えたある日。熱海上空を不思議な暗雲が覆ったのだ。
いや、熱海上空という表現は適切ではない。熱海地区を中心に、関東はおろか東日本をすっぽりと覆い隠すように。それは大規模なものだった。
そして、熱海上空の中心点に、異様なまでの熱源を察知した光子力研究所は、その熱源の調査のため、マジンガー軍団を熱海上空に向かわせたのだ。
「間もなく、中心点よ」
「それにしても…熱源も異常だけど、この雲自体も嫌な感じがするわね」
先行するミリオンα1のパイロット、双子の姉妹であるロールとローリィが口を開く。
「気を抜くな。Dr.ヘルの野郎がまた何かたくらんでるのかも知れねえ」
「ああ。この黒雲で雷起こして地上を焼き払うとかな。…ぞっとしねえや」
後続するバイオンβ2、ダイオンγ3のコックピットで、東が釘を刺し、大出が背中をぶるりと振るわせた。
「なにがあったって、それが俺たちの敵なら、叩き潰すだけだ。俺たち、マジンガー軍団がな!」
しんがりをつとめるマジンガー…兜甲児の力強い言葉に、うなづくマジンガー軍団の面々。
と、暗雲が震えだす。
「なんだ?」
周囲の黒い雲が蛇のようにのた打ち回り、機体を後退させるロールたちの目の前で、その中心にぽっかりと穴を開けた。
「なんだ、あれは…!?」
「雲の中心に何か……いる!」
次第に晴れていく黒いもやの中、それは、マジンガーをも超える巨躯を露にした。
「あれは……そんな! あれはまるで……!」
「どうした、甲児!?」
「あれがなにか、分かるの?」
ケドラを追い迷い込んだ、過去の世界での記憶が蘇る。
マジンガーZの原型ともいえる神。そして、背に負うゴッドスクランダーの基となった……ゼウス。
そして、そのゼウスとともに戦った凶神・ハーデス。
そのいずれにも似ているのだ。
否、風貌がではない。
まとう空気…いわば雰囲気である。
それはハーデス同様に禍々しきものではあったが、ゼウス同様に迫力のあるものであった。
「ミケーネの……神!?」
(吾は……クロノス……)
「!!?」
マジンガー軍団に戦慄が走る。
「な、何だ今の声…頭の中に直接響いた…」
「東、お前にも聞こえたのか?」
「大出もか!?」
(吾は……クロノス……)
再び、声が頭に届く。
「クロノス…?」
「確か、ギリシア神話の農耕の神様がそんな名前だったと思うけど…」
(吾は……)
周囲の大気が、震えだす。
「!? みんな、気をつけろッ!?」
何かを察し、マジンガー軍団をかばうように矢面に踊りだすマジンガーZ。
(滅ぼさねば……)
表情のない“顔”。その口がぽっかりと開き……
(ならない……!!!)
猛烈な勢いを纏った、黒い炎が放たれた。
「甲児!?」
「うわあああああああああっ!!?」
その炎をまともに浴び、マジンガーの体が沸騰しそうなほどに熱せられる。
その熱は、コックピットの甲児にも伝わり、灼け付く痛みを与える。
「甲児ぃっ!!」
仲間達の声を遠くに聞きながら……甲児の意識が、途絶えた。
-つづく-
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というわけで、本作のボスキャラ登場。
名前が名前だけに、本当に今後のシリーズに登場しそうで怖い件。
ウラノスも出ているだけになおさらですね。
ちなみに、原典であろうギリシア神話においては、ウラノス、クロノス、そしてゼウスは親子・孫の関係にあり、また子の立場の者が親を制して権力を得るという共通項もあります。
まぁ、その設定をなぞらえるのであれば、ゼウスによってクロノスは何らかの形で敗北しているのでしょうから、本編にいきなり出てくる可能性は少しだけ薄くなるんですがw
(少なくともミケーネ七大将軍には名を連ねなさそうです)
ま、これからこれから。
<2009年12月04日06:39 mixi日記初出>