炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【メモ4SS】-眼鏡の理由(わけ)は-【語堂つぐみ】

 カウベルが鳴る。来客の合図だ。
 もちろん言葉は「いらっしゃいませ」

 だけど、この時間にカウベルを鳴らすのはたった一人。だからオレは、こう言葉をかける。


「…おかえり、つぐみ」


 そう言うと、彼女はいつだって、ふわりと微笑んでこう返してくれるんだ。


「…ただいま」




    ときめきメモリアル4 ~あれから、それから~
    EPISODE:TUGUMI -眼鏡の理由(わけ)は-




「マスター、ちょっと休憩はいります」
「おう。あんまりゆっくりしすぎるなよ。娘とは仕事終わってからでもいちゃつけるんだからなー」
「お、お父さんっ!」

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 オレたちがきらめき高校を卒業して、1ヶ月。

 彼女は大学へと進学、オレは彼女の実家でもある喫茶店へと就職した。
 …ということを、二人の共通の友人である星川さんに報告したところ「婿入りだねー」と超笑顔で言われた。二人して照れた。

「というか本気で婿入りを考えるべきか否か」
「何の話よ…」

 一足先に休憩室に入っていたつぐみがジト目で見る。その手には原稿用紙の束。

 文芸部に所属していたオレは、今でも時々小説などを書いて、賞に応募してたりする。で、出す前につぐみに読んでもらって、意見や感想をもらうのだ。
 「なんか編集者やってるみたいね」とは本人の弁。

「で、どうかな。こないだ突っ込まれたトコ、いくつか直してみたけど」
 テーブルを挟んで向かい側のソファに座る。つぐみは、めがねを軽く持ち上げて、小さくうなづいた。
「んー……うん、だいぶ良くなってると思うわ。でも、まだここ…このあたり。ちょっと主人公の動きの動機付けが弱いかな。ここに説得力持たせられたら、もっと良くなるよ」

 伊達に本の虫じゃないつぐみ、指摘もかなり理にかなっている。本当に編集者とか向いてるんじゃないだろうか。

「やっぱそこかぁ。書きながらちょっと思わないでもなかったんだよな。…よし、もーちょっと練ってみるよ」
「うん。…あ、でもあんまりのんびりもしてられないんじゃない? 締め切りは?」
「それは大丈夫。あと2ヶ月はあるし」

 そっか、がんばってね。と笑顔で激励してくれるつぐみに、改めて胸にあったかいものがこみ上げてくる。

「…あっつ」

 原稿を机に戻し、コーヒーブレイクとしゃれ込むつぐみが顔をしかめた。あわててふーふーしていると、眼鏡が湯気で曇ってきた。

「あぁ、もうっ」

 顔を伏せて眼鏡を外す彼女。…そういえば、出会ってからこっち彼女の眼鏡を外した姿を見たことが無いような。

「ねぇつぐみ」
「…やだ」
「…まだ何も言ってないんだけど」

 君の考えてることくらいお見通しですー。と眼鏡をかけなおしたつぐみが頬を膨らませてみせる。別にいいじゃない。減るもんじゃなし。

「それはそうだけど……」
「つぐみの素顔を知らないのは彼氏としてなんか悔しい」
「そ…そういうセリフは反則……」

 耳まで真っ赤になる。隙ができた。

「おりゃ」
「ひゃっ」

 ひょい、と眼鏡を外してみる。慌ててあさっての方向を向くつぐみ。どうあっても素顔を見せたくないらしい。

「ねぇつぐみ、こっち向いて」
「…いや」
「恥ずかしがらないで」
「…遊んでるでしょ?」

 …ばれたか。

「…も、もぉ…」

 やがて観念したのか、おずおずと顔をこちらに向ける。眼鏡をかけていない彼女は、頬を染めながら視線をあちこちさまよわせていた。

「……あんまりぱっとしないでしょ? 眼鏡ないと、なんか物足りないっていうか…さ」
「そうかな? つぐみはつぐみだよ。オレは可愛いと思うよ」
「ばっ…」

 声を荒げかけて、口を閉じる。

「…ホントのこと言うとね」
「うん」
「……君の前で眼鏡外したくないのは……その……」

 だんだん小さくなる声。


  ―――眼鏡外すと、キミの顔…見れなくなる…から……


「……え?」

 今度はオレの顔が真っ赤になる番だった。

「は、恥ずかしいこと言わせないでよ…」

 言ったのそっちじゃん、と言いかけるのを慌てて飲み込む。目を細めて、じっとこっちを見るつぐみは、ぼやける視界でしっかりとオレの顔を見ようとしているようだった。

「…んっ」
 腰を浮かせて、つぐみが顔をオレに近づける。
「…見える?」
「まだ…ぼやける。…君も、もっとこっち、来てよ」
「…う、うん」

 オレもつぐみに倣う。すこしずつ、互いの顔が近づき……吐息が、ふわりとオレの鼻の頭を撫でた。


 鼓動が、早まる。

「…見える?」
「……ん」

 もう一度問うと、つぐみはこくり、とうなづいた。

 その目は熱っぽく潤む。初めて間近で見る目元。睫毛…意外と長いんだ。

「―――」

 つぐみが、オレを呼ぶ。

「…つぐみ」

 オレも、つぐみを呼ぶ。

 互いの顔が、もっと近づいて―――


「おーい、そろそろ出てきてくれな……」

 間延びしたマスターの声が耳朶を打ち、コンマ1秒で元へと戻る。

「……うん?」
「あ、お、お客さん増えましたか? じゃ、じゃもど、戻りますっ!!」

 真っ赤になった顔を見られないように伏せ、仕事場に戻るオレ。ちらりと視線を後ろに向けると、オレに負けじと真っ赤になった顔のつぐみ。…ちょっと涙目だ。




「む……ひょっとして邪魔したか?」
「お父さんっ!!!」


 からからと笑うマスターに、つぐみの雷が落ちた。



   -fin-



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 メモ4SS第3弾!…にしてようやく普通(?)のSS形式に戻れたぜ……

 今回のヒロインはつぐみんこと語堂さん。劇中で眼鏡を外すシーンがないなーと思ったので。もっとも、未見のイベントもいくつかあるのでひょっとしたらそのイベントのいずれかで外しているかもしれない。でも気にしない。

 …べっ別にリクエストに応えたわけじゃないんだからねっ!?(特技<ツン>発動


 後日談ということで要所にネタバレ含んでいるような気がしないでもないですがこまけえこたあきにすんな!(マテ

 しかし、実際につぐみん攻略中に彼女の実家に就職することになって「婿入りじゃねえか」とぼそっと呟いたのはいい思い出。
 ちなみに、3年間バイトを続ければたとえつぐみん攻略中でなくとも喫茶店への就職は可能なので、うまくやれば他のコとEDを迎えた上で彼女のウチで働くことも可能という。なんかいたたまれない(ぇ