――結局、マーベラスたちがコミューン・グランデを出るのは、それから1週間先のこととなった。
オーバーホールも終わっていないゴーカイガレオンでの大艦隊相手の大立ち回り、そして、ぶっつけ本番で行った<ゴーカイオーシステム>の反動で、僚機たる4機ともどもマシントラブルを起こしてしまい、合体システムの調整も兼ねたメンテナンスを、総出でやる羽目になってしまったのだ。
そして――
「な……な……なぁーーーーーっ!!!?」
マーベラスたちの出発を数刻前に控えたコミューン・グランデ内を、ひとりの青年の絶叫が震わせた。
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「なんで僕まで賞金首にされちゃってるのさーっ!!?」
ザンギャックから全宇宙に向け定期的に発布される賞金首の情報。その中に、見知った……というか自分自身の顔を見つけてしまったドンが、ガレオンに乗り込もうとしたマーベラスたちに詰め寄った。
「そりゃお前、俺たちと一緒に戦っちまったからな」
だからどうした、と言わんばかりに切って捨てるマーベラス。
「どれどれ……うわっ、何コレ……100ザギンって……ぷくくくっ」
横から手配書の内容を盗み見たルカが、その“ありえないぐらいに”低価格の賞金額に思わず噴出した。
「まあいいんじゃないか? こんな額ならわざわざ狙ってくる賞金稼ぎもいやしないだろう」
もっとも、駆け出しが腕試しに狙ってくるかもしれないが。などと冷静に分析するのはジョーだ。
「いや額のことは問題じゃなくてさ……いや問題だけど……ああもう!」
ある程度の額ならまだあきらめもついたろう。史上最低額と言ってもいいレベルの自分の手配書を見ているとなにやら複雑らしいドンである。
「そんなことより、もう出られるンだよな?」
話題を強引に打ち切り、自らの愛船を顎でしゃくるマーベラス。
「ああ、うん。それはもう大丈夫。他の4機も、ガレオンのハッチの中に次元圧縮を応用して格納してるから、いつでもすぐに使えるよ」
「無駄に高性能だな……」
ジョーが唸る。実際にゴーカイジェットをはじめとした4機が小さくなってガレオンに吸い込まれていったのを目の当たりにしたハズなのだが、未だに信じ切れていないようだ。
「よし、じゃあ行くぜ」
「何やってんだ、お前も来いよ」
「……えっ?」
目を丸くするドン。マーベラスが「おっと、忘れてた」と呟き、懐から何かを投げよこす。
「わっと……これ!?」
受け止めたドンが目にしたのは、彼ら<海賊団>の証……<モバイレーツ>と、緑色の<レンジャーキー>。
「乗りたかったんだろ? お前の作った船に」
「なに? 乗んないの?」
奥に引っ込んだはずのジョーとルカが顔を出して声をかける。
「え、あの……で、でも僕は……」
「……行って来い」
躊躇するドンの背中を、しわがれた声が押した。
「……ドク?」
今度は目を点にするドンに、ドクが肩をすくめて呟いた。
「まったく、“清く正しく船大工”がモットーのわしらの中から賞金首が出るとはのぉ……100ザギンだがな」
「賞金額のことはいいでしょう!?」
涙目に切り替わったドンを「まぁ冗談じゃ」と嗜め、小さく咳払いをする。
「理由はどうあれ、<犯罪者>となった者を、ここに置いておく事は出来ん。海賊連中と一緒に、どこへなりとも行ってしまえ」
「ちょ、ドク!?」
家族だと思ってきた老人に辛辣な言葉をぶつけられ、目を剥くドン。と、その視線が、ドクの目じりに僅かに浮かんだ光を捉えてしまう。
「行って来い。夢を諦めるなんざ、男の風上にも置けねえ愚行だ。もし艦がイカレてお前の手にも負えねぇようになっちまったら……帰ってくりゃぁいい。ドックの片隅くらい、いつでも貸してやるさ」
語尾を震わせながら、ドクはいつしか背中を向けていた。ずっと追いかけていた、その大きな背中を改めて目にし、ドンはモバイレーツを握り締め、大きく頷いた。
「わかった。それじゃ、行ってくるよ……“父さん”」
そのまま、“父”の顔を見ることなく踵を返し、ゴーカイガレオンに飛び込む。次いでルカ、ジョー、最後にマーベラスが乗り込み。しばしの後、ゴーカイガレオンがバーニアをふかし、巨大なドック艦の共同体を飛び去っていった。
「……バカヤロウが……“父さん”なんて呼んでんじゃねえって……あれほどよぉ……」
ドクの肩が、大きく震えた。
-つづく-
書きたいこと詰め込んだら大変な事態になってきた気がする。
自重はしないがな!
次回エピローグ! すぐうpする!