ユピテルの魂を魔眼の中に収め、さて帰ろうとした矢先…カチリ、となにか錠の開くような音がした。
吹き抜ける風の音が、なぜだか僕を呼んでんいるような気がして…
僕は導かれるまま、上の階を目指す。
グリモダールの巨大な時計台、その足元に…
「これって…」
城の中で見かけた、もう一枚のメモを思い出す。
かの老錬金術師・ベルガーは、復活した暴君に復讐すべく兄妹に生写しの機械人形と共にこの城へと赴いた。
無数の魔物を相手に、さしもの彼らも消耗し、そして…
「ここで、力尽きたのね」
マイコが、永遠の眠りについたエルフの老人の前に膝をつき、手を合わせる。彼女の故郷の、故人の悼み方らしい。
ふと視線を落とすと、彼の手には最後のメモが握られていた。
この時計台でデモンに陥れられた彼と、彼を守った機械人形たちの顛末。そして…
──あとに続くものたちよ…どうかこの“双子人形”を持ち帰り、修理してみてほしい。
彼の傍に、寄り添うように眠り続ける、双子の機械人形。
絶望に打ちひしがれた、彼の心の拠り所となった、文字通りの天使たち。
──願わくば、“マキナ”がその身に再び命を宿し…
狂った王の、憐れな被害者たるこの老人の…ささやかな願いが。
──あの美しい微笑を…我に見せてくれんことを…
血に濡れた羊皮紙に、書き記されていた。
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「むむっ!?それはもしや…双子の機械人形…ではないか!」
機械人形の残骸を持ち帰ると、レゼルムが声をかけてきた。知ってるの?
「知っているとも。かつてボクの父がグリモダール城に入った折に、父の友人の錬金術師も同行していたのだよ。その友人が連れていたのが…」
この子たち、ってことか。
「はは。人形相手に“この子たち”ときたか。いや、君らしい。ところで、父の友人…その機械人形の主人はどうしたのかな?」
すでに亡くなっていたことを伝えるとレゼルムは少し表情を曇らせたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「しかしこれは…ふぅむ。だいぶ損傷しているようだねぇ」
「ああ、こちらでも応急修理を施してはみたが…同じ錬金術師でも、機械の類は俺様にゃ専門外でねぇ」
どう見るね、レゼルム氏?とノアルが尋ねる。
「とりあえず預からせてもらうよ。後で店に寄ってくれ給え。それより君は…その瞳の中のブツを、管理人に届けなきゃだろう?」
デモンの魂を如何わしい取引の品みたいに言わないでよ…まぁ物騒なことに変わりはないけど。
−つづく−
発売からひと月以上経過し、全クリしてる人の方が多いとは思いますが、一応ネタバレ回避のため折りたたみを使ってみました。