炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

第1話/シーン5

  グォォォォォォォォン!!!

 怪獣の雄叫びが海原を揺るがす。
「…!」
コックピットの計器が異常を示し、コウイチは戦慄した。
「“怪獣”から高エネルギー反応!何か来る!!」
再び怪獣が吠える。刹那、その音波が突風と化し、男たちの翼に襲いかかる。
「総員回避! 急げッ!!」
シンジロウの叫びと、パイロットたちが操縦桿を操作したのはほぼ同時だった。今までの暴風が比にならないほどのパワーがファイターフォースを、シルエットフォースを容赦なく叩き伏せる。
「ンのぉぉぉぉっ!!」
寸でのところで直撃こそ免れたが、シンジロウ機が翼の一部を風にあおられきりもみする。
「シンジロウさんっ!」
「そう何度も何度も…同じミスしてたまるかよっ!」
言葉の荒々しさとは対照的に、手の動きは冷静かつ適確だ。
「うるァ!」
バーナーの噴射とGCSの出力を巧く絡み合わせ、シンジロウ機は本来の姿勢を取り戻した。
『ひゅーっ、やるねぇシンジロー!』
「へんっ。同じ轍は踏まねぇってのが、真のプロフェッショナルってヤツよ」
 エドの軽口に、シンジロウは鼻を鳴らして応えた。

「今の突風、あの怪獣から発せられた…。じゃあさっきの台風もアイツの仕業なのか?」
周囲に発生した突風の作用で、漂っていた雲は全て吹き飛ばされ、怪獣はその禍々しい巨躯を露にしていた。
『だろうな…だがどっちにしろ、こんなデカブツほったらかしにはできねぇぜ。…隊長!攻撃許可をッ!』
 通信機越しにロバートに指示を請うシンジロウ。…しばしの間をおき、ロバートが口を開いた。
「止むを得んか…。各機、武装解禁! 攻撃を許可する!」
『『『『ロジャーッ!!!!』』』』
 機体の操作パネルに重々しい蓋に覆われたスイッチが存在する。
 本来TEAM-F.O.R.C.E.は戦闘のための集団ではない。しかし、緊急時の手段として武装自体は装備しているのだ。
 蓋を外し、安全装置のスイッチを切る。全面のサブモニターにロックオンスコープが浮かび上がり、戦闘態勢を取った。
「覚悟しやがれ…」
『シンジロウ隊員は退がるべきだ』
 トリガーを引こうと意気込んだシンジロウを、アルが静止した。
『アルの言うとおりだな。コウイチもだが、空中戦は初めてだろう? ここは俺たちに任せて援護に回ってくんな』
 エドもそれに続く。
「…そうですね。わかりました、援護に回りま…」
『冗談じゃねぇ!』
 異議も無く同意するコウイチの返事を、シンジロウの大声がかき消す。
「俺だって元イーグル・ドライバーだ。やってやれねぇ事ァねぇ!」
 言うが早いか、ファイターフォースのバーナーを全力で吹かし、一気に怪獣に肉迫する。
「喰らいやがれッ!」
 すれ違いざまに機首に備え付けられた機関銃を掃射。通り過ぎた次の瞬間に反転し、ミサイルを全弾、至近距離で文字通り叩き込んだ。

  ギャァーーーーース!!!

「っしゃあ!」
 ガッツポーズを決めるシンジロウ。強烈な衝撃を受け、怪獣はその身を揺るがす。
「…ったく、無茶するぜあの人は」
「だがそれゆえに、強いのかも知れないな…」
 エドとアルが呟く。
「さて、それじゃ俺たちも続けていくぜ!」
『了解だ』
 二人の機体がつがいの鳥のように綺麗なコンビネーションでアーチを描く。二手に別れ、ミサイルを放つ!
「当たれよッ!」
 ミサイルは空を切って飛び、怪獣に直撃する…はずだった。

  ヒュルルルルルル…

「…?」
 不意に、奇妙な音が聞えた。その刹那

  バゴォン!!

「なにっ!?」
 ミサイルは怪獣に当たることなく、突如そのフォルムを醜くゆがめ、爆発した。
 目の前で起こったことを信じられず、驚愕に目を見開くエド
「もう一度だ、エドワード隊員」
「お、おう!」
 アルの声に我に返り、再びフォーメーションをとってミサイルを撃ち込む。
「今度こそ…」
「当たれ!」
 真っ直ぐ怪獣に向かい突っ込むミサイル。

  ヒュルルルルルル…

「何だ…この音?」
 コウイチが呟いた次の瞬間。

  ドムォ…!

「クソッ、またかよ!」
 再び怪獣の目前でミサイルが爆発四散する。爆風は怪獣の顔を掠めただけで、その威力は微塵も届いていない。
「どうなってんだ、一体…?」


「これは…ひょっとして…?」
 一方、オーシャン・ベースにてリアルタイムに送られる映像を見て、イオリが何かに気付いた。
 HDDに記録された映像を巻き戻し、ミサイルが炸裂した瞬間の映像を何度も見返すうち、彼女ははっと息を呑んだ。
「間違いないわ! これは…」

「ちっ、まだるっこしい! 遠距離射撃が阻まれるってンなら!」
 シンジロウ機が再びバーナーを吹かし、怪獣に接近を図る。
「至近距離で弾丸浴びさせてやるぜッ!!」
『待ってタキダ隊員!迂闊に近づいちゃ…!』
 通信機越しにイオリの声が響いたのと同時に、三たび風切り音に良く似た奇怪な音が鳴り…

   バヂィィッ!!

「な…にぃ!?」
 今度はシンジロウ機が謎の衝撃に晒され、機体の一部が文字通り弾け飛んだ。


 -つづく-




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 この謎の現象、分かる人には分かる展開ですよねぇ…
 折角なので晒しちゃうと、元ネタは「甲賀忍法帖」つか、「バジリスク」っつった方が分かりやすい?
 答え合わせは次回、シーン6で!