炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】紅蓮の剛刃:エピローグ“月夜”【紅蓮騎士篇・完】

エピローグ:弐“月夜”


「ふぃぃ~…悪いな。奢ってもらってよ」
「…本当に悪いと思ってるヤツは、浴びるほど呑まないと思うがな」

 夜の繁華街を、紅牙と天翔、そして斬が並び歩く。
 そのいでたちは少々奇妙ながら、すれ違う人々は振り返ることなく過ぎていく。

「そーよ。いくらアンタがウワバミだってバカスカ呑んじゃってさァ…」
「…そう言う一橋もやたら高いつまみばっかり頼んでたよな」
 斬の指摘に、天翔はジト汗を浮かべながら微苦笑した。

「まぁ、いいけどな。奢るって言ったのは俺なわけだし」

 とはいえ…と、自らの懐を省みる。
 どうやら今月は少々質素な暮らしをしなければならないようだ。

「…そーいや」
 魔導火でつけたタバコをくゆらせながら、紅牙が声をかける。
「あの嬢ちゃん…魔戒法師になるんだってな」
「さすがに話が早いな」
 まーな、と返す紅牙に、天翔が続く。
「この間、あたしも閑岱で少し話したよ。…健気ねぇ。愛しの斬くんの一番近くに居たいが為に、魔戒法師を目指す…なんてさ」
 その言葉がくすぐったくて、斬は照れくさそうに頬をかいた。
「ほんと、良い子過ぎるくらい良い子だよ。斬…あんた、あの子のコト、ちゃんと幸せにしないとダメだからね」
 釘を刺す天翔に、斬はしっかりと頷いて応える。
「言われるまでも無い」
 ぐっ、と拳を握り締めて。誓うように呟く。

「あいつは俺が幸せにする。…俺の全存在に賭けて」

 いつしか彼らは繁華街を離れ、人気の少ない裏路地に居た。
 月がピンスポットのように斬を照らし、シンとした空気は、さながら舞台のようでもあった。

「おーおー。カッコイイねぇ。それでこそ紅蓮騎士ってヤツだ!」
「紅牙! 茶化さないのっ」
 囃したてる紅牙に天翔が声を荒げた。



「…今回の件」
 ふと、斬が口を開く。
「二人には、本当に世話になった。いくら感謝しても感謝し足りない…くらいだ」
 言葉を選ぶように話す斬に、二人は笑って首を振った。
「気にすんな。俺たちも好きでやったようなもんだしな」
「ただのおせっかいって思ってなさいな」

 二人の言葉に、斬は胸にこみ上げる思いを、一つの表情に変えた。
 それは、彼らが初めて見る…
 斬の、心からの笑顔だった。

「…暁」
「おう?」
 声をかけられた紅牙の胸板に、ぽんっと斬の拳が突きつけられる。


「…ありがとう、“ザルバ”…」


 そう言ったのち、斬は「じゃあ、な」と呟いてから、夜の闇へと歩き去っていった。


「…ザルバ…旧い魔戒語で“友”か」
 天翔がふふっと笑う。
「カッコつけやがって…ったくよ」
 紅牙も苦笑いを浮かべた。


 その頬が少し赤らんでいたのは、呑みすぎた酒によるものか、照れくさかったからなのか…
 それは紅牙本人にも、判別がつきそうになかった。




  牙狼・異聞譚~紅蓮の剛刃~ -了-



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 これにて『牙狼・異聞譚~紅蓮の剛刃』は完結となります。
 いままで読んで下さった皆々様。本当に有難う御座います。

 今後、加筆修正の後、自分のHPに公開も予定しています。
 なにぶん多忙な身なので予定は未定だったりしますが(汗

 完結とは言いましたが、今後しばらく総あとがき、設定資料やこぼれ話、かなみや先代ベガである父・刃のエピソードなど、書きたいネタはまだまだ尽きそうにありませんw
 実は斬以外にもオリジナルの魔戒騎士を考案しており、彼らを主役に据えた作品も、いずれ書いてみたいものです。

 まだまだ、牙狼ワールドは終わらないぜぇ!


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