炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【掌編小説】君の声が、僕の傍にありますように(仮題

 風に揺れる梢の隙間から、朝陽が漏れる。
 木漏れ日が瞼の上から目に注ぎ込み、俺に朝を告げた。

「…ふむぅ」
 大きくあくびをし、ぐにぐにと首をひねる。よし、今日もちゃんと体は動く。

 ぱしゃぱしゃと小川の水で顔を洗うと、うつろな意識もようやくハッキリしてきた。

「…うしっ」
 枕代わりに使っていた布袋をひょいと引っさげ、俺は木の枝で眠る“相方”に声をかける。
「出発すんぞ。起きな、ソプラノ」
「ふぁぁ…」
 頭上から名前どおりのソプラノヴォイスが響き、ふわりとその主が舞い降りる。
 小柄な少女然とした姿は一見普通だが、その背中には羽虫のような羽がちょこんとついており、それが細かく羽ばたくたびに、彼女の体を宙に浮かせていた。

 ・
 ・
 ・

「ん…いい天気だな」
「そだねぇ~」
 俺が空を仰ぐと、ソプラノもそれに習う。柔らかな風を頬に受け、彼女のとがった耳がぴこぴこと動く。
「今日も日本晴れ、ってヤツだな」
「…ナニソレ?」
「俺の元いた世界の、住んでいた国のことさ。青空が綺麗なんだよ」
 首をかしげるソプラノに、俺はそう答えた。


   * * *


 俺がこの世界…所謂“異世界”ってヤツだな…に来たのは、1ヶ月前のことだった。
 どういういきさつでこっちに来たのかはさっぱりわからん。
 気がついたら、ここにいた。
 たまたま近くにいた農夫のおっさん曰く、『天を貫く光が見えて、その真下にいた』ってことらしいが。

 普通の異世界ファンタジー小説とかなら、ここで俺は救国の勇者とかに祭り上げられて、冒険譚の一つや二つも綴られるんだろうが…幸か不幸か、そーいうのにめぐり合うことは無かった。
 とりたてて目的があるわけでもない俺は…

「まぁ、折角の機会だしな」
 ということで、旅に出ることにした。

 この異世界…“フォ・ウクロア”と言うらしい…は、まるっきりファンタジーのそれだった。空にはペガサスが舞い、海は人魚の遊び場だ。退屈とは無縁の世界だ。

 もっとも、危険が無いわけでもなかった。雨雲に紛れて襲い来る、空飛ぶアノマロカリスの化物や、地面から、特大サイズのオケラが飛び出してくるのは正直、シャレにならない。

「一人旅なんて無謀なことするから、だよっ」
 ある日、化物オケラに襲われ逃げていた時に、うっかりがけから落ちてしまった。そこを助けてくれたのが、ソプラノだった。
 妖精族という彼女は、名前を持っていなかった。助けてくれた礼に、その綺麗な声から“ソプラノ”と名付けると、俺に興味を示し、旅に同行することになった。


   * * *


「…でもさでもさ」
「なんだ?」
 唐突に問いかけるソプラノに、俺は生返事を返す。
「元いた世界に、戻ろうとか思わないの?」
「あー…」
 正直、未練が無いといえば嘘になった。読んでた漫画の続きとか、バイト先のこととか、気になることもいろいろある。
 でも…
「…いいさ。別に」
 帰れるときがくれば、そのときなんだろうし。
 帰れないとしても、それはそれで、いいじゃないか。
「今はこの時を、楽しむまで、だよ」

 それに…

「せっかくこんな可愛いコと一緒に旅してるんだ。できるならずっと一緒に、旅してたいね」
 俺がそう言うと、ソプラノは耳まで真っ赤になる。
「そ、そそそそそそ…!?」
 舌が回らなくなった少女の頭を、俺はかるく撫ぜる。
「さて、行こうぜ。俺、もっといろんな物を見たいんだ。…案内、してくれるよな?」
「う、うんっ、もっちろんだよ!」
 ソプラノは鈴の転がるような声でそう応えた。






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 唐突にバイストン・ウェル的なものが書きたくなった(何
 ちなみに、ソプラノは妖精ではありますが人間より一回りほど小さいくらいのボディサイズです。
 (OVA版リーンの翼のフェラリオをちょっと成長させたような感覚)
 ビジュアルイメージは月姫のセブンかな…?



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 ↑web拍手です。感想とか「こんなの読みたい!」的なリクエストも受け付けます。
  …書けるかどうかはさておきですが(ぉ