「っ!」
牙狼剣を傾け、力任せに押し付ける“敵”……今はこうとしか呼称出来ない……の剣を逸らす。
“敵”は僅かにたたらを踏んだように見えたが、すぐさま体勢を立て直し、荒々しく腕を振り回した。
渾身の力で剣を振るう“敵”。だがそれゆえに大振りであり、魔戒騎士でも最高位である<牙狼>にとっては容易く見切れるものであった。
空を裂き、闇色の刃が2度、大きく振りぬかれる。下から薙ぐ斬撃をかわし、返す刃が振り下ろされるのを今度は牙狼剣で受け止める。
「ぐっ…」
先程より思い衝撃に、思わず腕を持っていかれそうになるのをこらえる。鍔迫り合いの形を維持しつつ、牙狼はじりじりと“敵”に肉迫していった。
「っは!」
牙狼剣が“敵”の刀身をすべり、鍔を強かに打ちつける。その衝撃で柄を握っていた指が僅かに緩んだ。
その隙を逃さず、篭手めがけて肘鉄を放つ。“敵”が取り落とした大剣を蹴り飛ばすと、それは朽ちた木刀の姿になった。
『…ま、誰かは知らんが魔戒騎士相手に剣で戦おうなんざ100年は早いってこった』
ザルバが軽口を叩く。
「うぅ……」
“敵”は唸り声を上げると、足元に転がっていた鉄パイプを拾い上げた。
「ン?」
『おいおい、そんなもんで魔戒騎士に勝とうっての……なに!?』
ザルバが目を丸くする。“敵”の手に握られた鉄パイプはみるみるうちにその姿を漆黒の<ロッド>へと姿を変えた。
『こいつ…手に持ったものを武器に変えられるのか?』
なんつう厄介な…とザルバがぼやいた。
『おい鋼牙、ここはヤツの動きを止めるべきだ。武器を封じても後から作られたんじゃ意味がねえ!』
加えて、魔戒騎士には鎧を纏っていられる時間に限りがある。長期戦は不利といえよう。
その言葉に頷き、鋼牙は間合いを取り、牙狼剣を構えなおす。ザルバの歯が刃を噛み、火花が散った。
「!」
先に動いたのは“敵”の方だった。ロッドを小脇に抱えると同時に、鋼牙に肉迫する。
(さっきより素早い!?)
動きの変化に気付いた刹那、ロッドの先端が顔面を捉えた。
「ぐっ!」
咄嗟に後ろに飛び退いたが、ロッドは面の右目部分を打ち、金色の粒子が弾けた。
脳を揺らされることは防いだが、右目部分の視界を一時奪われる。
『鋼牙、死角から来るぞ!』
重い痛みを堪え、奪われた視界の蔭からくる打突をかわす。先ほどの剣による攻撃のようなパワーはないものの、まるで別人になったかのような身軽さで連続して打突をくりだしてくる。
「ちっ…」
水のような流れる動きでロッドが回り、黄金の鎧を打つ。
そして、一呼吸の後―――打突。
(今だ!)
眼前に迫るロッドの先端をギリギリまで見据え、鼻先に激突する瞬間、牙狼剣の刃を当てる。位置をずらされたロッドは仮面の頬をかすめ、大きくそれた。
「はぁっ!」
鋼牙はさらに間合いを詰める。腕に渾身の力を込め、柄頭を“敵”の腹に打ち付けた。
「!」
腹の底から震えるような唸り声が上がり、“敵”の動きが止まり……わずかののち、ゆっくりと倒れた。
『しめた! 鋼牙、畳み掛けろ!』
「いや……その必要は無い」
そう言って鋼牙は鎧を返償する。
『あ?』
鋼牙の足元でうずくまる漆黒の鎧は、やがて霧散し、その内より歳若い男の姿が現れた。
『人間……だと?』
驚くザルバを尻目に、鋼牙は倒れた男の身体を抱えあげる。
『ちょ、おいおい、連れて帰るつもりか?』
「ホラーじゃないなら大丈夫だろう。事情がわからん以上、当事者から話を聞いた方が早い」
『……それもそうだな』
やれやれ、また厄介ごとになりそうだぜ。ザルバが溜息混じりに呟いた。
「………………ツカサ……ヤシロの…あねさん…」
鋼牙の肩に担ぎ上げられた男の口が、誰かの名を発した。
-つづく-
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今作における「クウガ」は、果たして何者なのか。実はアバンタイトルのイメージを考えたときは全くもって未定でした(滝汗
まぁ、ディケイド様々と言いますかw
ストーリーも組みやすくなって結果オーライにw
言っちゃ何だけど、オダジョー…もとい、五代クウガじゃたとえどんな外的要因があっても黒目のアルティにはならないんじゃないかなーとも思ったんですよね。
…や、別に小野寺クウガを貶めてるわけじゃないですが。
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