炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【シンケンSS】閑話・寒稽古夜噺

「…あれ? ことはのヤツ何処行ったンだ?」

 食後のみかんをパクつきながら、ふと千明が呟く。
「ん? そういえばさっきから見ないわね…」
 首をかしげる茉子が千明の手からみかんをひと欠け奪っていく。
「私は風呂に行ってるものと思っていたが…そういえば時間が経ちすぎているような…」
 流ノ介もみかんをつまみながら話に加わる。

「ことはなら玄関で見かけたぞ。道着に着替えていたから、大方外で稽古しているんだろう」
 まったく、休むのも侍の務めだといつも言っておるのだが…と、ぶつくさ呟きながら彦馬がみかんを半分ほど持っていく。

「ま、熱心なのはいいことだ。…千明も見習ったらどうだ?」
 溜息混じりに丈瑠が残りのみかんを掴み、口に放り込んだ。

「ふ~ん……ってお前ら! 俺のみかん勝手に喰うな!」




   侍戦隊シンケンジャー・幕間
   閑話・寒稽古夜噺-かんげいこよばなし-





 暦が春になったとはいえ、まだ夜は冷える。
 その只中で、白い息を吐きながら、ことはが一心に竹刀を振っていた。

「……よう」

「?」
 不意にかけられた声に、ことはが振り返る。
「あぁ、千明…」
「付き合うぜ。一人で素振りってのも味気ねえだろ?」
 千明がそう言うと、ことはがにぱっと微笑んだ。
「ん、ありがと」
 おし、決まりだな。と千明が手にした得物を軽く振り回す。
「あれ? 千明は竹刀やないの?」
 首をかしげることは。千明が持っているのは競技用のなぎなたを改造した長槍だ。
「ああ。ほら、俺ウッドスピア使ってるだろ? だから槍の扱いも…な」
 ヤなら変えるぜ? と言う千明に、ことはは首を横に振って応えた。
「そっか。じゃ、お互い手抜き手加減なしでな」
「うん」

 互いに向かい合い、礼。

 竹刀と槍が構えられ、二人の間の空気が引き締まる。

「はッ!」
 先に仕掛けたのは千明。
 手首のスナップを器用に効かせ、穂先が風を切ってことはを狙う。
「っ!」
 ことははつま先で大地を蹴り、千明の懐に飛び込んだ。
(何!?)
 後ろに飛び退くと踏んでいた千明は思いがけないことはの動きに一瞬面食らう。
「はぁっ!」
 頭上に振り下ろされる竹刀。咄嗟に槍を引っ張り込み、柄で受け止める千明。
「っと!」
「やっ!」
 立て続けに打ち込むことは。女性ながら鋭い剣捌きにあっという間に千明は追い詰められる。
「…っとりゃぁ!」
 竹刀が槍の柄とかち合った瞬間を見極め、力任せにそれを押し戻す。ことはの軽い体が一瞬浮き上がり、その隙に千明は間合いを取る。

「……」
 ごくり、と唾を飲み込む音がやけに響いて聴こえる。
 手を抜いたつもりは無い。つまりはそれだけことはの実力が高いということだ。
 改めて自分の弱さに凹む。

(だけど!)

 決めたのだ。丈瑠を超えると。
 そのためには。

 こんなところで燻ってなんかいられない!

「はぁ……っ」
 目を閉じて、大きく息を吐き、精神を集中させる。
 神経がピン、と張り詰め、槍の穂先、その切先までもが自らの身体と一体になる感覚を覚える。

(ことはは女にしちゃ一太刀一太刀が重い。だけどそれは真っ直ぐすぎるからだ。…なら!

 かッと目を見開く。足裏が地面を削り、飛び出した体がことはとの間合いを詰める。
「っ!」
 向かってくる千明に、真っ向から相対することは。ふわりと持ち上がった竹刀が、一気に振り下ろされる。
「あらよっ!」
 刀身が千明の脳天を捉える刹那、千明の身体がくるりと回り、行き場を失った運動エネルギーにことはがおおきくたたらを踏んだ。
「わったっ」
「はあっ!」
 その隙を逃さず、千明が槍を真横に薙ぐ。
「っは!」
 なんとか体制を整えたことはが、それを石突で防いだ。
「まだまだっ!」
 手首を返し、立て続けに槍が舞う。
 変則的に立ち位置を変える千明に対処しきれず、次第にことはの表情が不安げになる。
(よっし、思ったとおりだ)
 真っ直ぐすぎることはの性格は、そのまま太刀筋にも現れている。端的に言ってしまえば直線的過ぎるのだ。ゆえに、円を描きながら動く、今の千明に対応できない。
「動きが鈍ってるぜ、ことは!」
 にやり、と意地悪く笑ってみせる。ことははというと、表情こそ晴れないが、その視線は対峙したときと同じ真っ直ぐなそれだった。
(このまま一本、取らせてもらう!)
「はぁっ!」
 大きく空振りし、隙だらけのことはの側面に身体を向け、槍を振り下ろす。
(もらいっ!)
「っ!」
 しかし、振り切ったことはの竹刀が千明の方へと振りあがった。
「うお!?」
 重なった竹刀と槍が乾いた音を立てる。鍔迫り合いの様相を呈した二人は、必然的にその身を近づけ―――

「……!」
「……!」





 目が、合う。


「…………あ」

 上気した頬。こころなしか赤く見える。

 僅かに上がった息が、肩を震わせている。

 汗のにおいに混じって、甘いような、すっぱいような、心地よい香りが鼻腔をくすぐる。


 こいつ…こんなちっさかったっけ?


 触れる竹刀に、鼓動が伝わる。自分の鼓動に、それが重なるような錯覚を覚える。


「…………こ」
「隙ありっ」


   ぺこっ


「てっ」

 竹刀が千明の頭を小突く。

「あ……」
 軽い痛みに、自らの敗北に気付く。
(…な、何やってんだ俺は……)

 なんともマヌケなやられかたに内心自己嫌悪に陥る。

「どうしたん、千明?」
「あ、いや…別に」
 胸の中に僅かに芽生えた“なにか”をかき消すようにかぶりを振る。

「……やっぱ強ぇな、って」
「え?」
「お前だよ。俺もまだまだ頑張りが足らねえや」
 乾いた笑いを浮かべる。
「……そう、かな?」
「そーだよ。すげーよお前。いつもの稽古に加えて、こうやって夜にもやってさ。そりゃ俺なんかじゃぜんぜん超えらんねえよ」
「そんなこと…」
 若干自虐気味の千明をたしなめるようにことはが口を開く。
「そんなことあんだよ。お前はすげえの。褒めてんだから素直に喜んどけ」

「……そっか」
 くすぐったそうに、ことはが笑う。

「………すごいんだ、ウチ」
「……おう」

「……じゃ、じゃあ…」

 ふと、ことはが千明を見上げる。上目遣いのその仕草に、千明の心臓が軽く跳ねた。

「もうちょっと、褒めてくれへん? ……そしたら、ウチ、もうちょっと自信つくと思うねん」
「…は?」

 言葉の意味を図りかね、千明の頭にハテナマークが浮かぶ。

「えっと…その…」
 目を逸らしながら、口を濁すことは。

「ほら、あの……こないだの、ときみたく…」
「こないだ?」
「………ズボシメシと、戦ったときの……」
「ああ……で?」
 要領を得ない千明に、ことははちょっと頬を膨らませる。

「だ、だから……あんな…?」





   あ…頭…撫でて欲しいねん………




 消え入りそうな声で、そう言った。



「…は?」
 きょとんとなる千明。
「…あ、あかんかな?」
「いや、別に…いいけど」
「じゃ、じゃあ……」
 ことはがぴょこんと近づき、頭を千明に向ける。
「お、おぅ…」
 汗ばんでいた右手を袴で軽く拭いてから、ぽんと頭に乗せる。

「んっ……」

「………」

 さわさわと髪が指の間をくすぐっていく。

(うお…髪やらけー…)

 あのときはヘルメット越しだったが、今は直に頭を撫でている。

「~~~♪」

 なんとも気持ちよさそうに笑みを浮かべることはに、妙にドギマギしてしまう。

(いい匂いしてやがんな……どのシャンプーだ?)
 志葉家の風呂場には全員分のシャンプーが並んでいる。が、自分以外のが誰がどのシャンプーかまでは知らなかったし、特に知ろうとも思わなかった。

 でも、なんとなくことはのが知りたくなった。

(…って、何考えてンだ俺はっ)

 妙に意識してしまい、顔が熱くなるのがわかる。

(おちつけ…相手はことはだぞ?)

 聞きようによってはちょっと失礼な考えだ。

(アレだアレ。なんかドキドキしてたり顔が熱かったりしてンのは…………身体動かしたからだ。そーいうことだな)

 自己完結完了。

「……くしゅんっ」
「ん?」

 ことはの鼻が可愛らしく鳴った。

「あ…冷えてきてんな。汗かいたままだったし」
「ん…そやね」
 えへへ…とことはが笑う。
「とっとと戻ろうぜ。先、風呂入ってろ」
「あ、うん」
 ほら、と名残惜しそうに自分の頭を撫でていることはを促し、千明も志葉邸へと戻る。







「……ことは、か」

 掌の残り香をそっと嗅ぎながら、千明が小さく呟いた。




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 ことはは俺の嫁!(挨拶
 いつかのゴーオン赤×銀に続き、しょうこりもなくシンケンで緑×黄SSなど書いた。

 もはやビョーキですサーセンwww(←反省の色無し

 今作は第6幕「悪口王」を基にした後日談ネタ。
 アレで緑×黄に【全力で】フラグが立ったと信じて疑わない俺。
 異論は聞くが受け付けない。答えは聞いてない(またかい


 さて、次は溜まってるらき☆桜藤祭ネタをどうにかせにゃ…


http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
web拍手です。…いつかYahoo!ブログに<A>タグが使えるようになるって私、信じてる!