「はぁ…はぁ……っく」
薄暗い通路を、足を引きずりながら人影が進む。
ボロボロになった体は、ところどころから火花が散り、また、その頭の形状は、それが<人ならざるモノ>であることを示していた。
「…があ」
蟷螂のそれに似た口が、喀血するように大きく開かれた。
が、人たる証である血を持たぬゆえに、口から吐き出されるのはにごった空気のみであった。
「……こ、この私としたことが…少々予定外でしたね……」
<ジェノサイドロイド>初號体の捕獲の任を与えられた<彼>は、反抗したジェノサイドロイドに手痛い打撃を受け、命からがら<基地>に戻ってきていた。
「しかし、ヤツが<変わる>ことが出来ることを、報告せねば…」
そして、自らの身体を直さねば。
ただ生き延びたい、その本能だけが、満身創痍の彼を突き動かしていた。
生き物から逸脱した存在である彼も、死という恐怖は持っていたらしい。
「…あらぁ?」
と、彼の行く手に、もう一つ人影が現れる。
そのしなやかな肢体と艶かしげな声が、それを女性だと示していた。
「お、おお…!」
その姿を見た彼が、思わず表情をほころばせる。
「随分手ひどくやられちゃったわねぇ…ああ、右腕なんて千切れちゃって…」
心配そうな面持ちで近づいて来た彼女が、そっと彼を抱きしめる。
「フフ…ちょっと想定外な事があってな。…すまんが、司令室まで連れて行ってくれ。今回の報告をせねばならんからな」
「あら、その必要はないわよ?」
彼女のその言葉に、彼が首をかしげる。突っ張った人工筋が軋んだ。
「<初號体>の捕獲任務、私が引き継いだから。あとはあなたから詳細を<もらう>だけ…」
ぺろり、と彼女が舌なめずりした。その言葉の意味に気付き、彼が戦慄する……
が、遅かった。
「いただきまぁす」
彼が最後に見た光景は、大きく開かれた彼女の紅い紅い口腔であった。
・
・
・
「…ふぅん」
蟷螂の怪人…一人分の身体を丸ごと喰らい、ゲップをひとつした<彼女>が、その記憶を読み取り、紅い唇をにやりと哂わせる。
「フフフ……美味しそうな仔……」
さぁ、どう楽しみましょうか?
女が享楽に笑う。床を這う彼女の影は……
蟷螂の、それであった。
―――その紅き血を炎と燃やせ、『正義』の名の下に!
仮面ライダーBLOOD-MASKED RIDER BLOOD-
第2幕:悪食女郎と仮面騎士<アクジキジョロウ ト カメンキシ>
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さて、そんなわけでBLOOD、再始動です!
このシーン、実は最初期のプロットでは1幕のラストシーンの予定でした。まあいろいろあってこっちのがいいかな、的な。
でも次のシーンもアバンタイトルっぽいつくりになるんだよな…
ま、どうにかしますか。
そろそろ他のオリジナルも再始動させなきゃなー…
(初出:2009年07月10日00:33 mixi日記)