「ぎっ……!?」
無機質な蜘蛛の仮面が驚愕に震える。<変身>したエイジ……否、<仮面ライダー>がゆっくりと蜘蛛怪人に向かって歩き出した。
「うっ、動くな! こっちには人質が……」
「やってみろ」
低く重い声が、耳朶を打つ。気圧された蜘蛛の右腕の爪が囚われの結花の喉元に触れようとした刹那――
「……ッ!」
エイジが地を蹴る。足裏に備わったバーニアが火を噴き、瞬時に蜘蛛怪人に肉薄した。
「うおおっ!!」
伸ばしたエイジの右手が喉を掴み、バーニアの噴出力で怪人の体を引き摺る。鋭利な爪先は結花の肌の薄皮一枚を僅かに掻くに留まった。
「ぐあっ」
石切り場の壁面に怪人を叩きつけて動きを封じ、結花の戒めを解いたエイジは達也のもとへと跳んだ。
「大丈夫か?」
「エイジ……なのか?」
自らを絡め取っていた糸を切ってもらいながら、達也が問いかける。
「目の前で<変身>したろう?」
苦笑交じりの声は、仮面に阻まれてもなお友のそれであることに気づき、達也に笑みが戻った。
「後は俺がなんとかする。結花を連れて早く逃げてくれ」
「お、おう……」
未だ気を失ったままの結花を担ぎ、達也が退がるのを見届けたエイジは、再びその視線を蜘蛛怪人へと向ける。その体中に静かな怒気を孕ませながら。
「ぐぅ……」
岩盤にめり込んでいた怪人が、自力で立ち上がる。口元がゆがみ、金属のような歯軋りの音が響いた。
「なんだそれは……<仮面ライダー>だと? ハッ! 正義の味方でも気取っているつもりか」
蜘蛛型の仮面の奥の瞳を憤怒に充血させながら、怪人が謗る。
「嗤わせるな。記憶がなかろうと、いくら取り繕おうと、お前の体に刻まれた<事実>は変わらんよ。その躯を見てみろ……その手を、その胸を!」
その言葉に、エイジが改めてわが身を視界に入れる。銀色を貴重としたそのボディは、拳や胸部など、要所要所が真紅に染まっていた。
「その禍々しい紅! それはお前が今までに流してきた血の跡だよ。我ら<カルマ>に罪の意識など在り得ぬが、今のお前は違うだろう?」
「なっ……」
刹那、エイジの脳裏に不鮮明なヴィジョンがよぎる。蟷螂の怪人と戦う前に見たものとも違う……今の姿と同じ紅い拳が、人の命を奪う……
「ああ違うな!」
「っ!?」
不意に響いた声に我に返るエイジ。振り返ると、逃げたはずの達也が仁王立ちしていた。
「たしかにそいつはエイジが流した血の成れの果てなのかも知れねぇ……けどな、それだけじゃあねえよ」
こいつの赤は!
「お前らに怒る、こいつ自身の……燃える血の紅ってヤツだ! 禍々しくなんか、これっぽっちもねえ!」
「達也……」
友の言葉に、胸が熱くなるのを感じる。
「フン、戯言を。こいつはジェノサイドロイド。血などとっくに、こいつの中には存在しない!」
「……俺を」
その名で、呼ぶな。
「?!」
睨み付ける視線が、怪人を突き刺す。
「俺は……仮面ライダー……そう、<仮面ライダーブラッド>だ!!!」
高らかに宣言し、拳を強く握る。
「ありがとうな、達也。お前の言葉、忘れない。
……俺の体の紅は俺自身の血。そして、俺が今まで奪ってきた筈の命の紅。俺は……それを背負って……こいつらを……<カルマ>を、斃す!」
その気迫に、蜘蛛のシルエットが大きくたじろいだ。
-つづく-
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主役ライダー初名乗り。
コンセプトは「昭和ライダーのノリで平成ライダーをやる」なのでこれぐらいフツーです(ぇ
それはそれとして、第3幕はあと2場くらいいる模様。見せ場で切る手法とれば長引いてしまうのは仕方ないのかもしれないなぁ。もうちょっと組み立て方を意識してみるか。
ちなみにブラッドのカラーリングですが、シャドームーンをベースに腕部、脚部、胸部(ラング)が赤であるとイメージしてもらえればたぶん大体あってます(ぇ
いや描きゃいいんでしょうが。
次回は本作初のマトモな必殺技描写あるよ!