炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

Chapter:1/Scene:5

「くそ…勝手が違いすぎる……」

 肩で息をしながら、通之介が呟く。

「前に“一人”で乗った時だって、ここまではキツくなかったハズだぜ…?」

 やはり、向こうとこっちでは環境が違うのか。そう思い、一人冷や汗と脂汗を同時に流す。

「…っと!」

「…ん?」

 と、そんなときに声が聞こえてきた。

「足元…?」
 視界を切り替えた通之介の目が丸くなる。先ほどまで部屋にいたはずの、再会したばかりの幼馴染の姿だった。


「ちょっと! 聞いてんの!!?」

 早朝の町、騒ぎにわらわらと窓を開けて外をみる人々の視線を浴びながら、それでも大声をシュ・ヴェルトに向けて張り上げているのは、パジャマ姿のまひるだ。

「…な、何やって…?」

 絶句する通之介であったが、戦いの真っ只中に生身の人間をおいておくわけには行かない。シュ・ヴェルトの体から飛び出し、するすると鎧を伝ってその足元に降りる。

「お、おい…」
「あんたなにやってんの!? こんなところでこんなデカイの動かしてたら町の人たちにめーわくでしょーがっ!!!」
 声をかけようとしたとたんにまくし立てられ、思わず口をつぐむ通之介。
「そ、そんなこと言ってもだなぁ……やべ!」
 思わずたじたじになる通之介だったが、こちらに近づいてくるボーンゴーレムに気づく。咄嗟にまひるを抱え上げ、一足飛びに跳んだ。

「え、ちょっ、何す…うわあああああああああ!!?」

 一瞬のうちに体が浮かび上がり、今度はまひるのほうが混乱する。
「とりあえず今は危ない! こっちに避難して!」
 まひるを抱えたまま、シュ・ヴェルトの喉元の球体を通じて中に滑り込む。
「…っと!」
「わぷっ」
 軽やかに座席に座った通之介とは対照的に、その手前の搭乗スペースに頭から突っ込みひっくり返るまひる
「あたた…ちょっともう! 仮にも女の子なんだからやさしく扱いなさいよね!」
「仮なのかよ……ってか!」
 なおも肉薄するボーンゴーレムに対し、とっさにシュ・ヴェルトの腕を動かし、それを押しとどめる。

「…ん?」

 と、ここで違和感に気づく通之介。

(さっきまでみたいな疲労感がなくなってる?)

 力を吸い取られる感覚がいつしか消えていた。

(でも…なんでだ?)

 疑問に思う通之介の視線が、ぶつけた頭をさするまひるに向く。

(まさか……いや)

 通之介の中で、わずかに浮かんだ疑念。

(…まひるが“あの人”に似てるのは、ひょっとしたら偶然じゃないのかもしれない……!)

まひる!」
「なっ…なに!?」

 きょろきょろと周囲を見回していたまひるが、急に名前を呼ばれてあわてて振り返る。

「……頼みがある」

 真剣な表情の通之介に、まひるが思わず息を呑んだ。


   -つづく-



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 実は、すでに1話分のネタはまるまるあるんですよね。

 まぁ、文章化しているわけではないので時間はかかるんですけど。

 ところで、劇中の季節を特に言及はしてなかったんですが、早朝に、上着引っ掛けてるとはいえパジャマオンリーで外にって…風邪引くんじゃなかろうか(ぇ