炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ダブルSS】JとF/イーヴィル・カラーズ:シーン3

 下半身が車の車輪のようになった<ドーパント>がそれを高速で回転させるたびに、地面に敷かれたタイルがひび割れ、はじけ飛ぶ。

 破片の嵐の只中にあって、正木忠義……刃野から捜索以来を出されていた男……は、微動だにせず、その場に立っていた。

「ばっ……何やってんだ逃げろ!」
 大声を張り上げ、正木に退避を促す翔太郎。
 が、その声は彼にとは届かない。

「……ようやく見つけたぞ、車谷」

 無精ひげが散らばる口元が揺らぎ、低く声を響かせる。

 おもむろに振り上げられた左手の先に持っていたものを見て、翔太郎と亜樹子が小さく驚きの声を上げた。

「あれ…!」
「<ガイアメモリ>…!」


 -JUSTICE-


 ガイアメモリのキーを押すと同時に、ガイアメモリの電子音<ガイアウィスパー>が響く。

 正木がゆっくりと右腕を掲げる。その肘には、ガイアメモリ使用者特有のアザがあった。
 そのアザの中央に向けて、ガイアメモリの先端をあてがい、一気に押し込む。

「…!」

 わずかに顔をしかめた瞬間、膨大な熱量が彼を中心に渦巻き、一瞬で彼の姿を…“変える”。

「まさか……あの人も<ドーパント>なの…?」
 絶句する亜樹子。その姿は、どこか一昔前のヒーロー然とした、今までに見たドーパントとは一線を画したスタイルであった。

「…はっ!」

 崩れかけた地面を蹴り、飛び上がる。左に比べ、僅かに肥大化している右腕が唸りを上げて、彼が車谷と呼んだ<ドーパント>を襲う。

 が、その拳が届く前に、ドーパントの車輪がその体を移動させ、躱す。

「早い!」
「くっ…!」
 再び正木がジャンプし、ドーパントへ肉薄する。しかし、やはり攻撃の寸前にドーパントが高速移動でそれを避けた。

「ひょっとして、あの人…」
「ああ、殴ることしか能がないっぽいな」

 翔太郎がデジタルカメラを取り出し、それに<ガイアメモリ>を模した<ギジメモリ>を装填する。

 -BAT-

 掠れたガイアウィスパーと同時に、カメラがコウモリのような姿になり、戦場へと飛んでいく。
 携帯電話を開くと、コウモリのカメラ…<バットショット>の映像がモニタに飛び込んできた。

「…何かビームとか、武器とか持ってる風でもないし…」
ドーパントなら、なにか特殊能力の類を持っててもいいはずなんだがな…」

 モニタ越しに、ドーパントを追いかけ攻撃を繰り返す正木の姿。

 と、回避に徹していたドーパントが高速移動の先を正木に向けた。

「!」

 咄嗟のことに回避体勢がとれず、ドーパントの体当たりをモロに受けてしまう。

「がはっ…」

 すさまじい衝撃が体を突きぬけ、10メートルほど吹き飛ばされる正木。

《まったく、いち公僕の分際でしつこいんだよ。おとなしく事件の捜査だけしていれば良かったものを…》

 ドーパントがあざけるように笑う。

「黙れ…!」

 積もった瓦礫の破片を払いながら、正木がよろよろと立ち上がる。

「俺は<正義>を目指して、警察という道を選んだ! その警察に巣食う<悪>を、裁いて何故悪い!?」

《世の中には、裁かれざる<悪>というものもあるんだよ……これだから清濁飲み合わせるということを知らない若造は困る》

 そろそろ消えてもらおうか、正義の味方君?
 そう哂いながら、ドーパントが車輪にエネルギーを溜め込む。刹那、その姿が消えた。

「いや、違う」

 翔太郎が呟く。超加速によって消えたように見えただけなのだ。

「うわあっ!」

 体当たりがさまざまな方位から繰り出され、正木を強かに打ちのめす。

《とどめだ……!》

 いったん動きを止めたドーパントが、まっすぐに正木をにらみつけ、一気に飛び込む。

「……っは!」

 激突の瞬間―――

「!」

《お……おお?》

 ドーパントの腹部に、深々と正木の右拳がめり込んでいた。

「攻撃がワンパターンで助かったぜ。…どうやったって俺に突っ込んでくるんなら、待ち伏せできるってわけだからな」

《な……》
「おらあっ!」
 拳を引き抜き、蹴り上げる。宙に浮いたドーパントを尻目に、右腕にエネルギーが集中し、赤熱化する。

「……潰えろ!」

「アレは…<メモリブレイク>?」

 目を見開く翔太郎。その眼前で、正木の拳が、ドーパントの異形の体躯を撃ち抜いた。


   -つづく-


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 名前を出す機会がなかったので紹介。
 車谷が変身しているドーパントの名称は<ホイール・ドーパント>です。

 さて、そろそろプロットを練っていかないとヤバくなってきますたw(ぇ

 正木の目的、そしてその結末は?
 オイラにも分かりません!(阿呆