炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

第2話/シーン2

「コーイチー!」
「おう、ここだここ!」

 オーシャン・ステーションの最深部に位置する、アクアライナーの発着場。
 太平洋のど真ん中に位置するこの基地と、世界各地をつなぐ、海底列車のようなものである。

「もう、突然『オフだから遊びに行こう』とか。私だって結構忙しい身なんだからね」
「わかってるよ。だからこそ、息抜きってのも大切だろうが」

 ぷんすかいいつつも、油にまみれた作業着から余所行きの洋服に着替えたイオリはどことなくうれしそうにも見えた。

「こないだ約束してたモンブランも買わなきゃだしな」
「そ、そうね…」
 茶化すように笑うと、イオリが恥ずかしそうに俯いた。

「さて、そんじゃいこうか」
「うん」

 ちょうど到着したアクアライナーに乗り込む。行き先はSDF日本支部だ。


   *


「んーっ、着いた着いた」
「なんだか久しぶりの日本だなぁ」

 SDF日本支部から電車を乗り継いで、東京にやってくる二人。

「そうよね。資材とか情報とか、たいていのものは向こうで賄えるし」
「さすがにモンブランは手に入らないけどな」
「まだ言うか」

 それでもうれしそうな表情なのは、本当に大好物だからなのか。

「……にひひっ♪」

 それはコウイチにはすぐ判別できそうになかった。

 さておき、人はモンブランのみで生きるに非ず。

「さて、どうする?」
「ん?」
「せっかく休みなんだ。モンブランもいーけど、ちょっくら遊んでいこうぜ」

 コウイチがそういうと、イオリがぱっと明るい表情になった。

「う、うん!」


   *


 平日の、ややまばらな雑踏を、着かず離れず歩いていく二人。
 いとこ同士の、微妙な距離感。

「…って、あれ? イオリ? どこいった?」
「ここよ~」
 かけられた声のほうを向くと、人の波に巻き込まれたらしいイオリがぴょんぴょんと手を振っていた。
「すまん、見失った」
「…暗に私がちっちゃいとでも言いたいのかしら…」
 ギロリとにらみつけるイオリに、全力で目をそらすコウイチであった。

「あ、これかわい~」
「着る機会あるのかよ…日がな一日格納庫こもってるくせに」
「う、うっさいわね! いいじゃない! 女の子はみんな可愛いのが好きなの!」

 はいはい、と聞き流すコウイチに、ふくれっつらをしてみせるイオリ。

「ま、こうやって出かけるときにでも着りゃいいんじゃね?」
「あ…う…」
「…なんだよ?」

 目を伏せるイオリに、コウイチが訝しげな視線を向ける。

「…また、遊びにつれてってくれるの?」
「ま、休みが合えばな」

 何とはなしに呟くコウイチ。
 イオリは「そっか…うん」と小さくうなづいた。

 ―――と、

「ん?」
「えっ?」

 不意に足元がゆれ、目の前のショーウィンドウがひび割れた。

「え、ちょ…」
「イオリ、下がれ!」

 コウイチがイオリの腕をとって引っ張った刹那、ガラスが砕け、ばらばらと地面に散らばる。
「大丈夫か?ガラスの破片で怪我とかしてないか?」
「あ、うん……あ、ありがと」
 急にまじめな表情になったコウイチにドギマギするイオリに気づかず、コウイチは辺りを見回す。

地震か…こいつはかなりデカいぜ…?」
 とにかく、避難誘導だ。そういってコウイチが悲鳴の聞こえるあたりに走り出し、イオリもそれに続く。

「みなさん! おちついて! こちらへ避難してください!!」

 近くに小学校があったことを思い出し、そちらへと人々を誘導する。大声を張り上げているうちに幸一の存在に気づいた人たちが彼の示すほうへと動き出した。

「あせらないで! 走ると余計に危険です! …うわっ!」
「大丈夫!?」
 再び大きなゆれが起こり、体をよろめかすコウイチの腕を、イオリが掴んでとどめる。

「ああ、大丈夫だ。…しかし、こりゃただの地震じゃないぜ…」
 ジーンズのポケットから通信機を取り出し、オーシャン・ステーションへとつなげる。

『あらコウイチくん。デート中にどうしたの?』
「茶化さないでください…っつか、ちょっと調べて欲しいことがあるんです」
 状況を手短に伝え、返事を待つ。やがて、小型モニタに映るイズミの表情が変わった。
『これは…巨大なエネルギー反応が地下で動き回ってるわ。おそらく、地震の原因はそれね』
「エネルギー反応? それって…」

 言いかけたコウイチが言葉を切った。ひときわ大きなゆれがアスファルトを砕き、地面から……何かが現れたのだ。

「……怪獣?! こんな街中にか!!?」

 驚きに見開かれたコウイチの瞳に、ギラギラと光る怪獣の眼光が飛び込んだ。


   -つづく-


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 本日の怪獣は地震怪獣。
 …ナマズ型じゃねーです。

 一方、オーシャンベースと、各国のSDF支部を結ぶF.O.R.C.E.の足といえるアクアライナー
 元ネタは「ウルトラマンガイア」に登場するダブライナー。アレも空中に浮かぶ基地と地上を結ぶ移動手段ですしね。

 ライナーと銘打ってはいますが、シャトルみたいな潜水艇で、特に線路とかは設けていません。具体的なスピードは…まぁそのうち決めますw
 ただ、マッハはいけると思います。スーパーキャビテーションシステムとかもありますし。つかそんぐらいないと太平洋のど真ん中から世界各国を繋ぐにはのんびりしすぎるしw