炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ボウケンSS】-名前と距離とぬくもりと-【さくら編】

 宇宙という名の大海原を、超弩級航行艦・ゴーゴーボイジャーが往く。

 未知なる秘宝・プレシャスを求め、かつて<不滅の牙>と呼ばれた男は、その大きすぎる冒険スピリッツを宇宙へと向けたのだ。

 そして、彼の傍らには―――純粋な敬愛を、何時しか恋心へと変えていた、一人の女性の姿があった。


 彼女の名は、西堀さくら。


 彼にも内緒でゴーゴーボイジャーにもぐりこみ、宇宙のプレシャス探索任務に同行したさくら。
 その胸中には、未知なるプレシャスへの純粋な興味以上に、隣で目を輝かせながらダイボイジャーの舵を取る、明石暁への想いでいっぱいであった。





    轟轟戦隊ボウケンジャー Task:50.5
    EPISODE:SAKURA-名前と距離とぬくもりと-





「……ふぅ」

 コックピットからみえる無数の星を数えながら、さくらがため息をつく。
 彼に想いを伝えると決め手から数ヶ月。その仲は一向に進展する気配も無かった。
 いや、分かっているのだ。自分が動かなければ、あの朴念仁は気づきもしないことくらいは。

「でも、だからといって何をすればいいのか…」

 彼女とて年頃ではある。が、生まれが財閥の令嬢、元陸自特殊部隊という背景は、彼女から色恋沙汰というものを思い切り遠ざけていた。

 こういうとき、菜月やレオナ…彼女たちに相談をすべきであっただろうか……と思う。
 少し考えて、あんまり立場はかわらなそうだ、という結論に至る。

 いずれにせよ、冒険者は色恋沙汰には縁遠いのだ。


「……さくら、交代の時間だ……ん?」

 背後の自動ドアーが開き、想い人がひょっこりと顔を出す。が、とうのさくらはそれに気づかず、ぼんやりとモニタを眺めていた。

「……おい」
「わひゃっ!?」

 急に頬に熱い感触が触れ、さくらの声が裏返る。驚いて振り返ると、少々呆れ顔の暁がいた。

「どうした、ぼんやりして。お前らしくも無い」
 ほら、とコーヒーの入ったマグカップを手渡す。先ほどの熱の正体はこれだったらしい。

「あ、いえ…ちょっと考え事を…」

 覗き込む暁の顔を近くに感じ、自身の顔が熱くなるのを感じる。

「ん…?どうした、顔が赤いが、風邪でも引いたか?」
 と呟きながら、おもむろに手をさくらの額に当てる。

「…!」

 見る間にさくらの顔が真っ赤になる。

「…うーん、熱は無いようだが……まぁ、もう交代の時間だ。しばらく休んでろ」

 別の意味でお熱にはなっていたが、それはさておき。
 暁の言葉に「はい…」とうなづいて、さくらはゴーゴーボイジャーのコックピットを後にした。


   *


 48時間の休息の後、再び暁との交代のためにコックピットへと向かう。
「明石さん……交代の時か…」

 声をかけようとしたその口が止まる。

「……」

 暁が、シートに背を預けて眠っていた。

「……ふぅ」

 思わずため息がこぼれる。
 なれない宇宙での任務。いかな<不滅の牙>とて疲れは溜まるであろう。
 それを口にしてくれないことに、少し寂しく思うさくら。

(そりゃ…パートナーとして、心配をかけたくないとか思ってるのかもしれませんけど)

 それより、もう一歩先へ進みたいと願う彼女にとって、それは無用の優しさといえた。

「…まぁ、それはそれとして」
 ひとり呟き、深い眠りに入っている暁を見る。起こすのも忍びないので、とりあえずは毛布代わりにと自分の上着をかけようとした、そのときだった。

「……むにゃ」

 不意に暁の体が動き、さくらの手をとる。

「え?」

 何事、と思ういとまもなく、ぐいと引っ張り込まれ……彼に抱きかかえられるような体勢になってしまった。


「え? え? えええ!!?」


 突然の出来事に、恥ずかしさとうれしさと、なんだかよく分からない感情がぐるぐると渦を巻く。


「あ……明石……さん」

 硬直していた自分の体が、少しずつ和らいでいくのが分かる。伝わる体温が、鼓動が……敬愛し、それ以上に想いを抱く人の全てが、伝わってくるようだった。

「……む?」

 と、暁の意識が覚醒する。

「……あ」
「………む?」

 僅かの沈黙。暁が、現状を確認し、その顔が一気に色を失った。

「す、すまん!」

 ばっと腕を放し、さくらの体を引き離す。

「寝ぼけて…いたようだ。いや、悪かった。少し疲れていたらしい。…あっと、もうこんな時間か。じゃ、交代だな」

 さくらに声をかける余地を与えず、逃げるようにコックピットを去る暁。
 あとには、ぽつんとひとりさくらだけが残された。


   *


「……もうすぐ、交代の時間…か」

 腕時計に目をやり、ため息を一つつくさくら。
 あれから3日ほど経っていたが、交代の引継ぎも淡々と行われ、必要以上の会話を交わすことも無かった。
 こぼれるため息も、いつも異常に陰鬱だ。

「……いけない、このままじゃ」

 動かなければ、何も変わらない。むしろ、後退は必至だ。

「なんとか、しないと」

「…何をだ?」

 意を決した刹那、背後から暁が声をかけた。

「!!」
「あ、すまん…驚かせるつもりは無かったんだが」

 ばつが悪そうに視線をそらす暁。

「…あ、いえ。勝手に驚いただけですから」
「そうか」

 会話が途切れる。

「あーっと…後退するぞ。引継ぎを」
「あ…はい」

 また、淡々とした空気が二人の間を流れる。

「……なぁ、さくら」
「は、はい」

 と、それを断ち切ったのは暁のほうであった。

「この間は……その、悪かったな」
「いえ……」

 ここだ、ここで踏み出さないと。
 さくらが、息を呑む。

「うれしかったです」
「…は?」
「あ、いや…その…変な意味じゃなくて」

 慌てるさくら。

「なんというか、頼ってもらえたって思えたんです」
「…?」

 訝しげな視線を向ける暁。

「ええと……私、明石さんの力になりたくて、ボイジャーに乗りました」
「うむ…」
「でも、実際は明石さん、自分ひとりの力でいろいろなんとかしてるじゃないですか」

 そんなことは…と言いかける暁であったが、心当たりを思い出して、口ごもる。

「まぁ、実際には頼ってもらえたのとは違いますけどね。ただ、明石さんのいろいろを、受け止められるように……私はなりたいんです」

 そういう、関係に。


 さくらの真摯な言葉を聴き、暁は大きく息を吐いた。

「……明石、さん?」
「すまん。こういうとき、どう応えていいか……わからない」

 視線をそらした、その横顔は、耳まで真っ赤になっていた。

「……いいですよ。今は」

 明確な一歩ではないだろうけれど。それでも、確実に進んでいるってことは、彼の反応を見れば明らかであった。

「明石さんが、明石さんの言葉で、応えてくれるのを……待ってます」
「……ああ。なるべく、待たせないようにする」
「期待してますよ?」

 微苦笑するさくらに、暁も苦笑いを浮かべた。

「あ、そうだ」
「ん?」

 さくらが、ちょっと恥ずかしそうに口を開く。

「今度から……“暁さん”って、呼んでいいですか?」


   * * *


 あれから、数週間が経過した。

 順風満帆、ゴーゴーボイジャーは今日も道なき宇宙をゆく。

「あれが、次の目的地ですか?」
「ああ。<惑星イスラ>だ。先ほど、高いハザードレベルをあの星系で観測した。プレシャスが眠っている可能性がある」

 その表情は、宝物を手にした子供そのもので、いつもの暁からは想像もつかないほどに無邪気であった。

「……なんか、妬けちゃいますね」
「ん?」

 少しだけ頬を膨らませて、さくらが呟く。

「私より、プレシャスに心を躍らせてるみたいです」
「…それは、否定しないな」

 そうですか、とさめた口調でさくらが言うと、その頭を、ぽんと暁のてが軽く撫でた。

「だが、お前と一緒にいるときは、わくわくというより……ドキドキするな」
「……! そ、そんなこと真顔で言わないでください!」

 顔を真っ赤にするさくらに、暁はからからと笑う。

「さぁ、もうすぐ到着だ。ミッションスタート……アタック!」

 指を鳴らし、アクセルを一気に踏む。

 ネオパラレルエンジンが、二人のボウケンスピリッツを糧に、フル回転を始めた。



   -To be continued GEKIRANGER VS BOUKENGER-




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 ネタは前からあったけど、書くにいたらなかったのを久しぶりに掘り起こしてみた。

 「ゲキレンジャーVSボウケンジャー」でいつのまにか呼び方が「明石さん」から「暁さん」に変わってたことに関するミッシングリンク補完。

 恋愛ベタなさくらとボウケンバカな朴念仁の暁の恋の行方は…

 いやもう、ほんとにどーなってるんでしょうねw