炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

スーパー特撮大戦200X:第3話/シーン1

 エイジとラン。そしてタクマとサキがアミーゴに居候を始めて数週間。
 戦いの傍らでアミーゴの手伝いを始めるランとサキは、常連客のアイドルになりつつあった。

 一方、彼らの戦いに新たな勢力が介入を始めた。その名は<新人類帝国>。 

 帝王バンバを名乗る謎の人物が率いる新人類帝国は、下等な人類を滅ぼし、超能力を持つ“ミュータント”即ち“新人類”だけの世界を築こうとしているのだ。

 不気味なガスマスク姿のファントム兵士と、強力な超能力者を強化改造したサイボーグ・ミュータントロボットを擁し、ショッカーにも劣らない勢力を持つ超能力者軍団。
 それは、まもなく表舞台に上がろうとしている……

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「本当に大丈夫か? お前たちだけで情報収集なんて……」

 そんなある夜。満月にやんわりと照らされたアミーゴの入り口前で、妙に意気込むサキに戸惑うタクマの姿があった。

「今は少しでも敵の動きに関する情報が必要なときです。それに、圧倒的に人で足りない今……各人が機能的に動かないと」
「でも、お前……地球のこと、っていうか日本のこともよく知らないだろう?」
「え? サキさんって外国の人なんですか?」

 エイジの問いかけに「ん、まあな……」とタクマが口調を濁す。

「名前が日本風なのは、そう名づけられたからってだけですから」
「あ、ああ……そうなんだ。たしか母方の祖母が日本人だったかな」

 サキの説明に、タクマが繕うように続けた。

「それに、立花さんからいろいろ聞いて、日本の文化は解かっていますよ」

 そう言うサキ曰く、『日本人は何よりも礼を重んじており、人の欲求に対して、自分の意見よりも他者の意見を尊重する民族』とのことだ。

「……あのオヤジ、いつの時代の日本のことを言ってるんだか」

 頭を抱えるタクマに、サキが頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

「まーまー。だーいじょうぶだって。私も一緒についていくしさ!」
「……不安しか感じないのは俺だけですかね、タクマさん?」

 呟くエイジに「エイジの意地悪!」といつもどおりの抗議が飛んだ。

「……まあ、いいさ。とにかく何か情報をつかんだら必ず連絡を入れろ、いいな?」
「了解!」
「はーい!」

 対照的な返事を返し、二人の少女が夜の街へと消えた。


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「とは言ったものの……」

 繁華街からは少し離れた暗い夜道を歩きながら、サキがひとりごちる。

「こうして、夜の街を歩いていても何か情報が落ちているわけでもないわね。ねえランちゃ……」

 声をかけようとした相棒の様子に、サキが語尾を置き忘れる。

「どうしたの?」
「うぅ……なんか出そう……」

 恐怖に震えているらしい少女に、サキが優しく肩を抱く。

「大丈夫ですよ。お化けというものは所詮科学的には存在しないものです。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』という言葉が日本語にもあるでしょう?」
「いや、それは知らないけど……」

 日本語の知識で負ける純日本人であった。

「お化けも怖いけど、最近話題の新人類っての。あれも怖いよぉ。あれも、お化けみたいに消えちゃうっていうよ?」

 そう言う彼女が取り出す携帯電話には、新人類の噂でもちきりになるSNSのページが表示されていた。

「私は、どちらも視認したことがありませんのでコメントはし難いですが……」
「まぁ、あたしも見たこと無いけど……。あ、新人類なら本郷さんが見たって」

 先日、ショッカーを追っていた本郷の前に超能力を操るサイボーグが現れたらしい。自らをミュータントと名乗っていたため、恐らくはそれが新人類帝国のミュータントロボットなのだろう。
 どうにか撃退はできたものの、ショッカーの改造人間にはない不可思議な力には、仮面ライダーも苦戦を強いられたようだ。

「……!?」

 と、不意にサキが足を止めた。「な、何?」とおっかなびっくりランが伺うと、サキはおもむろにしゃがみこんだ。

「ど、どうしたのサキさん?」
「……お財布が落ちていました」

 これです、と差し出した黒い財布に、ランが思い切り安堵のため息を漏らした。

「もー、驚かさないで下さいよぉ……」

 勿論脅かしたつもりの無いサキは首をかしげる。ふと、彼女の耳が不適な笑い声を聞き届けた。

   ――フッフッフッフッ……

「!?」
「わわわっ…!?」

 警戒する二人の前に現れた人影。その異形の姿に、ランが目を見開く。

「1・2・3・4・5……わっ、顔が五つもある!?」

 ランの指摘どおり、五つの顔をその体に持つ異形の怪人が、「その通り」と哂う。

「新人類帝国のイツツバンバラとは、俺のことだ!」
「新人類帝国? 本郷さんの言っていた、ミュータントの侵略軍ですね……」

 サキがランを庇いつつ、“敵”のスキャニングを開始する。

「新人類帝国のためには、貴様ら下等人類は虫けらと同じだ。死ねいっ!」

 イツツバンバラの顔から火柱が上がり、襲い掛かる。咄嗟に散開しそれを回避すると、ちょうどスキャニングが終了したところであった。

「戦力分析……【能力不明】?」

 超能力は宇宙帰りの戦士にとっても未知数なのか、AIが融機鋼殻の着装を促すガイダンスメッセージを表示した。

「ランちゃん、下がって」

 融機鋼入りのカプセルを掲げたその瞬間である。

「待てッ!!!」

 戦場を切り裂く、凛々しく熱い男の声。
 現れたのは、本郷と同年代くらいの青年であった。

「なんだ、貴様は!?」
「俺の名は、渡五郎(わたり・ごろう)!」

 そう名乗った男が、イツツバンバラの五つの顔を順番に睨みつける。

「夜の夜中、けったいな奴が現れお嬢さんたちを狙っている……男なら、逃げるわけにはいかん!」
「ならば貴様から先に死ね! 我々、新人類に歯向かった人間は、絶対に生かしてはおかん!」

 イツツバンバラの向ける殺意が、矛先を五郎へと変える。五郎はランたちに視線を向け、小さく頷いた。

「君たち、早く逃げなさい!」
「えっ!? でも……」

 躊躇するランを促したのはサキであった。

「ランちゃん。ここは彼の意思を尊重しましょう?」
「えっ?」

 で、でもこの場合、一番強いのサキさんなんじゃ…… と、ランが小声で尋ねる。

「ですが、日本ではこういう時、相手の意見を尊重すべきと……」

 立花仕込みの(少々時代逆行気味の)日本文化を吹き込まれたサキが、半ば有無を言わせずランの手を取る。

「さぁ、早く!」

 五郎の声に、二人が同時に返事をして、その場を離脱する。

 夜の戦場。月光に照らされた戦舞台は、五郎とイツツバンバラだけのものとなった。



   -つづく-




 この作品のお約束として、オリジナル主人公たちが絡まない限りは版権組の原作ストーリーは追いません。
 一応説明だけしておくと、このあと五郎さんはあっさりイツツバンバラにやられてしまいますが、その際キャプテンサラーによって救出され、イナズマンへの変身能力を得ることになります。

 ついでにゲームシナリオ的に言うと、一方その頃的なノリで、ウルトラ警備隊とゲームオリジナルの防衛隊・「警備班」の合同演習が始まったりなんだりがありますが……今回はそのエピソードははしょります。
 一応オリジナル勢力の一つであるし、警備班の班長さんも結構重要人物なので次回あたりに閑話として挿入予定。

 さてさてさて。
 メタル系とバイオ系の主人公が同居しているという、既にゲームにおいてはありえない展開のままストーリーが進んでいるので、なかなかセリフ回しやストーリー展開も悩ましいところです。
 なるべく不具合が無いようにはしてるつもりですけどねー。
 
 そいでは、次回をお楽しみにゃー。