炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

スーパー特撮大戦200X:第3話/シーン2


「……で、だ」

 スナック・アミーゴ。

 閉店後も煌々と明かりのつく店内は、ヒーローたちの待機場所だ。

「その渡五郎という青年と、新人類のイツツなんとかってのが戦ったってことだな?」

 タクマの問いに、サキが首肯する。

「それで……お前は戦いもせずに逃げ帰ってきた、と?」
「はい……」

 二度目の問いも肯定され、タクマが大きくため息をついた。

「まぁ、確かに女性としては自然な対応かも知れないが……」

 普通の女性ではない筈のサキの対応に、思わずこめかみを押さえるタクマである。

「で、ランもランでどうしたんだよ?」
「あ、あのね……五郎さんが、顔が五つもあって! 新人類が、大変で……!」

 大変なのはお前だ。とこれまた頭を抱えながらエイジが呟く。

「ともかく、現場に行ってみよう。その青年のことが心配だ」
「そうですね。手分けして探しましょう」

 互いのパートナーを連れて、エイジとタクマがアミーゴを出た。


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「このあたりか、ラン?」
「うん……」

 五郎と別れた辺りに到着した4人が、周辺を捜索する。満月と、申し訳程度ながら街灯が照らす夜の街は、静まり返っており、かろうじて残った戦いの痕跡を見つけ出すのがやっとであった。

「これ以外の手がかりはなしか……サキ、そっちはどうだ?」
「いえ、こちらもダメです……」

 場所を変えるか? とのタクマの提案に、しかしサキは首を横に振った。

「どうしても気になるのです。きっとこの辺りになにかあるのでは……と」
「それはデータ集積の結果か?」

 再び首を振る。

「いえ、確実ではありませんが……強いて言えば、“女のカン”というものに近い感覚で、そう思うのです……」

 ついぞ相棒の口から聞くことを想定しなかった単語が飛び出し、思わずタクマの動きが止まる。

「女のカン、ですか。それも、立花さんから教わった日本文化ってやつですか?」
「あ、それ教えたのあたしだよ」
「ランの場合、カンというより嗅覚だよなぁ……」

 エイジの軽口に噛み付くランを横目に、タクマは「胡散臭いな……」と呟く。

「なあ、サキ?」
「なんでしょう?」

 一瞬逡巡して、タクマが口を開く。

「お前、地球に下りてから、なんていうか……変わったよな?」

 その言葉の意味を捉えきれず、サキがきょとん、となる。

「そうでしょうか? 重力変動と電離層からの、微弱なプラズマによる“ひずみ”の影響でしょうか……?」

 ある意味でサキらしい、ズレた発言に再びこめかみを押さえ、一言ぶっきらぼうに返す。

「……索敵を続行しろ!」
「了解!」

 打てば響く、とばかりに返し、サキが捜索を再開した。

 と、サキの周囲に展開したホログラフィの索敵モニターが先だって登録したばかりのパターンを察知する。

「新人類タイプの改造人間のエネルギー反応です……来ます!」

 音も無く、暗闇を縫って五つ顔の怪人……イツツバンバラが現れる。同じタイミングでエイジたちの周囲を取り囲むようにガスマスクをかぶったファントム兵士も飛び出してきた。

「サキ! 今後の索敵リサーチには、データ検索+“女のカン”で頼むぜ!」
「了解! 思考プラグラムに追加します!」

 タクマの軽口交じりの発言に、サキが肯定の意を示した。

「お前がイツツバンバラだな? 五郎さんは……あの人はどこだ?」

 問い詰めるエイジに、イツツバンバラは高笑いをあげて応えた。

「あの男は死んだ! この俺様が地獄に送り込んでやったわ!」
「そんな!? 五郎さんが?」
「あの人が……死んだ?」

 イツツバンバラの言い放った事実に、ランとサキが目を見開く。特にサキは、能力差を知りながらその場を退いてしまった負い目もあり、後悔の念がその心を苛んだ。

「貴様らもすぐに後を負わせてやる!」

 迫るイツツバンバラとファントム兵士。戦闘態勢をとろうとした4人と怪人どもの耳に、その声が飛び込んだのはまさにこのときであった。

「……誰が死んだって?」

 女性陣にとっては聞きなれた、その声の持ち主がゆらり、と姿を現す。

「五郎さん!」
「むぅッ……どうして貴様が!?」
「悪のミュータント<新人類帝国>があるように、正義のミュータント<少年同盟>も存在する! 俺は彼らに助けられ、正義のミュータントとして生まれ変わった!」

  ――剛力招来!

 その言葉が五郎の喉から発せられると共に、体が“変転”する。ごつごつとした岩石のような体躯は、まさしく剛力を髣髴とさせた。

「新人類帝国の野望から、世界を守る<サナギマン>!」
「おのれ、サナギマンめ! 新人類帝国の恐ろしさを見せてやる!」

 イツツバンバラが大きく息を吸い込む。そして一息に豪熱とともに吐き出した。

「くらえ、火柱攻めぇ!!」
「なんの!」

 顔面を庇うように両腕でガードし、イツツバンバラの火炎攻撃を真っ向から受け止めた。
 強烈な熱波がサナギマンの肌を焼く。しかし彼は怯まない。退かない。

「うぅぅぅおぉぉぉぉ……!」

 サナギマンは待つ。サナギマンは耐える。“その時”が来ることを。

「……チェースト!」

 裂帛の気合とともに、炎を打ち払う。雄たけびに呼応するかのように、ベルトのサインが煌々と輝いた。

「今こそ成長のときだ! 行くぞッ!」

  ――超力招来!!!

 サナギマンの身体が爆裂する。

「自由の戦士、イナズマン!」

 そしてその爆煙の向こうから、青い体の超能力戦士が誕生した。


   -つづく-




 ――サナギマンが成長すると、ベルトのゲージが頂点に達し、イナズマンになるのだ!!

 ……というナレーションも入れたかったのですが、確実にセルピエンテ・タコーン(※)なので今回は見送り。
 次回以降のイナズマン回だな、やるとすれば。

 本格的にイナズマン参戦。
 彼を文章で表現するのは「アギト×イナズマン/Fight for FREEDOM」以来ですねぇ。
 あっちが一応テレビシリーズ後日談であるのに対し、こちらは原作1話目から。書き分け……がいるかどうかはあれですが、ちょっと雰囲気が違う五郎が書ければ善し、かな?

 さてさて。
 前話でバイオ・メタルの両主人公が合流したんで、彼らの会話パートがおおよそ1.5倍くらいに膨れ上がってます。
 それもあって(?)、今回の第3話はもう1シーン加えることに。
 いや、別にシーン数に制約は無いのですが。

 それに原作でも、1話に数マップ使うことが今後ザラになってくるので否が応にもシーン数伸びる可能性はあるんですよねぇ。
 長すぎると冗長化してしまうかなぁ、という懸念が、まあちょろっとあったりなかったり。


※わからない人は「クロスボーンガンダム・ゴースト」を読もう!(ステマ