――深夜。
情報収集のために“本棚”に篭った相棒と別れ、ひとり事務所に戻った荘吉は、マツに立ち入りを禁じた“開かずの扉”を開く。
かつてはビリヤード場のバックヤード兼倉庫だった場所は、巨大なガレージへと姿を変え、その中央には髑髏を模した巨大な装甲車が鎮座していた。
「……“幽霊”なら、ここにいるわ」
訪問者を察知し、住んだ女の声がコンクリートの壁に響く。装甲車が展開し、その中からひとりの“女”が現れた。
「あれは言葉の綾だ。怒るな“文音”」
そう荘吉が呼んだ女性は、全身タイトな黒ずくめのいでたちで、さらにはその顔は包帯で覆われていて、素顔を窺うことは出来ない。眼すらサングラスで隠したその姿は、まるでこの世から隔絶された存在にも見えた。
「今の私の名は、“シュラウド”よ」
しかし女は、“文音”なる名前を忌むようにそう告げた。
「幼馴染を今更そんな芸名で呼べるか……」
シュラウド……いわゆる“死に装束”を意味する言葉を名乗る彼女に何があったのか、それは荘吉も詳しくは聞かされてはいない。
ある日突然、今の姿で荘吉の前に現れ、事務所に匿うよう頼み込まれて以来、彼女は何かにとり憑かれたかのようにガレージでさまざまなガジェットの開発を行っていた。荘吉が、先の戦いで使用した、クワガタに変形する携帯電話――<スタッグフォン>も、彼女の手によるものだ。
「……お前が言っていた“怪物”を見たぞ」
図面をにらみつけていたシュラウドが、荘吉の言葉にぴくり、と反応を示した。
「ついに“組織”が、街の人間にメモリを売り始めたのね……」
“組織”という単語は、シュラウドからしばしば聞かされていた。彼女は、その“組織”の打倒のために動いているのだという。スタッグフォンをはじめとした多くのガジェットも、そのためのものだ。
「どうすれば勝てる?」
荘吉の問いに、シュラウドはポケットから何かを取り出した。
「貴方もこれを使う――方法はそれしかない」
中央には髑髏で描かれた“S”のマークが刻まれた直方体の物体は、シティホールであのレオタードの女が見せたものと少々形状は異なるものの、同じ“ガイアメモリ”であると見て取れる。
「……なら、断る」
荘吉が踵を返し、「これで十分だ」とスタッグフォンを放り上げて見せた。
・
・
・
コンクリートの床を打つ足音が遠ざかり、荘吉がガレージを出たことを扉の音が告げる。
シュラウドは、渡し損ねたガイアメモリをポケットにしまいながら独りごちた。
「どんなモノにも……それが街を泣かすものであれば身体ひとつで喰らいつく。それが貴方……“鳴海荘吉”だったわね」
そんな彼が、ガイアメモリを使うことを拒むのは至極当然であると、幼馴染であるシュラウド……否、文音は知っていた。
「でも、今回ばかりは分が悪いわ」
次に化け物……ドーパントと戦うことがあるならば、無理矢理にでも使わせる必要があるだろう。
彼をここで死なせるわけにはいかないのだ。
それは幼馴染としての親愛の思いだけではなく、彼女本位の、随分身勝手な理由もあったのだが。
「それでも、荘吉は受け入れてくれるでしょうけどね……」
昔からそうだった、と述懐する。誰かが泣いているのを放っておけないのが、鳴海荘吉と言う男だからだ。
そんな彼が探偵になった聞いたときは、驚き半分、納得半分以上だったか。
「目的は、果たす……」
それが、荘吉を裏切る結果になろうとも。
サングラス越しの視線が、手の中の資料に移る。
髑髏の“仮面”をつけた超人の図解が、その漆黒の双眸を彼女に向けた。
-つづく-
デバイスレインというPSゲーだったりするのがこの俺です(何
あ、うん。あとがきあとがき。
映画では荘吉がガレージを去るところでシーンが終わっていますが、ちょっと捏造してシーン追加。
テレビシリーズにつながるようなつながらないような、彼女の思いを少し加えさせていただいております。具体的な話はしないほうがいいかなーとおもったのでおもっきりぼかしてますけどね。
こんな感じで主要キャラを少しずつ少しずつ掘り下げられればいいんですがねぇ。次回辺りマツとか。