――地球の衛星軌道上に、弓矢の形をした影を見つけることができたら、貴方は運がいい。
……いや、あるいは運が悪いのかもしれない。
その“影”の正体は<サジタリアーク>と呼ばれる、宇宙の無法者・デスガリアンの居城であるからだ。
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「――ふぅ」
そのサジタリアークの片隅で、小さく息を吐いた唇。
デスガリアンの雑務を一手に引き受ける秘書・ナリアである。
「おや珍しい。君が溜息とはね」
「あ……ジニス様」
降りかかった言の葉に振り替える。見上げるほどの巨体の上で、ナリアの上司たるデスガリアンのオーナー・ジニスが妖艶に哂って見せた。
Kissing to……
Case:01/zenith × nadir as ZYUOHGER
「たしか78番目に滅ぼした星の格言に在ったね……“溜息をつく者は愉しみを棄てている”と」
「ありましたわね……でも、34番目の星ですわ、ジニス様」
「ああそうだったか……まぁ、もう亡い星のことなどどうだっていいが……」
すっ、と。眼を細めたジニスはナリアに顔を近づけた。
「あの者たちの存在が気がかりかね?」
ジニスの言に、ナリアはわずかの逡巡ののち、小さくうなづいた。
「確かに、過去のブラッドゲームでも抵抗され、斃されたプレイヤーがいないわけではありません……が、この星に来てからのプレイヤーの脱落数はあまりにも多すぎて……」
ジニスがそれすらもゲームの醍醐味だと言い放つことは知っていた。しかし、彼奴等の潜在能力は未知数だ。今はまだプレイヤーの消耗で済むかもしれないが、いずれリーダー、果ては眼前のジニスにすら牙をむくのでは……と、ナリアは憂慮しているのだ。
そんな態度を向けるナリアに、ジニスが含み笑いを浮かべた。
「案ずることはないよナリア。私は今、十分愉しんでいるのだから」
あるいは、自らの命すらBETすることも惜しまないのだろう。長い付き合いの中で、ジニスの性格はよく知っているナリアである。
「君が気を張ってくれているおかげさ」
「……ありがとう、ございます」
その言の葉は、本心からのものであろう。それもよく知っている。
だが……
「ジニス……様」
「うん……?」
小さく呼ばれた自分の名に、ジニスが今一度顔を近づける。
――っ
その刹那、ジニスの鼻に、ナリアの唇が触れた。
「……おやおや」
「っその……ジニス様のお顔に、ワインの跡がありましたので」
ぷい、と顔をそむけ、繕うように告げるナリア。
「ふむ……さっき飲んでいた時に船が揺れたから、その時かな……?」
「でしょうね……」
そのままジニスと目を合わせず、仕事が残っているとだけ言って、ナリアはそそくさとその場を後にした。
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部屋を飛び出し、無人のサロンへと足を踏み入れる。
今のサジタリアーク艦内は、地球で言うところの“夜”だ。チームリーダーたちもも次なるゲームに向けての作戦を練って……あるいはアザルドあたりは惰眠をむさぼっているのかもしれない。
そっ、と唇に触れる。その先にあった、ジニスの鼻先を懐かしむように。
「……ふふっ」
ジニスが、自分以外のすべてを下等と見下し、弄ぶのが喜びであるのなら。
「ジニス様は……この私が、“愛で”て、“玩び”ましょう」
鼻に当てた唇は、その宣誓。
「……下等生物の文明も、なかなか面白い趣を持っているわね」
――くすり、と。
「お礼と言っては何ですが……100個目の星にふさわしい、盛大な悲鳴と苦悶を……ジニス様の愉しみのために絞り出させてあげますわ」
誰ともなしにつぶやく、ナリアの唇が、嗤った。
-Kissing to Nose.“Flirting with pet”-
キスの日は5月23日。
これは、日本で初めてキスシーンのある映画が公開された日にちなんでいるのだとか。
なお、別の年の同日に「ラブ・レター」という映画が封切られ、それにちなんでラブレターの日でもあるとか。
ああ、どっちにしても縁ねえな!(
さりとて、題材としては面白いのでラブレターの日でもなんかやりますかね(適当
さて今回。
ひょんなことから、キス…すなわち唇が触れる場所によって意味が異なるという情報を得て、ならばオムニバス形式でキスの日までに何本か……と思っていたんですが、19日の時点でようやく1本目なので、うまくいく気がまったくしねーです(
今回のターゲット(?)は鼻。鼻へのキスが意味するものは「愛玩」
ここで何を血迷ったのか、脳裏に浮かんだのが
などというジニス様の発言。
結果、鼻キスのカップリングがめでたくジニス様×ナリアに決まったという……
もうほかに思いつかなかったのw
ついでにいえば、これが(予告編などの小ネタを除く)初のジュウオウジャーの二次創作だったり。
主人公勢置いてけぼり……!
まぁともかく。
まがりなりにもオムニバス形式、という体で始めたので。
キスの日過ぎてもぼちぼちやっていこかなーなどとなどと。