―――その“噂”は、風のように戦場を駆け抜けた。
「なぁおい、聞いたかよ。今回の“戦争”のそもそもの原因」
「ああ、聞いたぜ。なんでも―――」
「ああ、聞いたぜ。なんでも―――」
後から思い直せば、なぜこんな取るに足らない“噂”に踊らされたのか。
戦争にかかわった全ての人間が首をかしげたものだ。
戦争にかかわった全ての人間が首をかしげたものだ。
それだけ、長く続いた緊張状況は過酷を極め、とっとと終わらせたかったのだろうか。
その真意は、さておき。
「俺たちの国と、向こうの国のお偉いさんの娘が…」
「いや、孫娘じゃなかったっけ?」
「どっちでもいーだろ? んで―――」
「いや、孫娘じゃなかったっけ?」
「どっちでもいーだろ? んで―――」
噂の発祥は、今もなお定かではない。
気がつけば誰かが口にし、気がつけば兵士レベル、大隊レベル、戦場レベルで伝わり広がり…
気がつけば誰かが口にし、気がつけば兵士レベル、大隊レベル、戦場レベルで伝わり広がり…
「たった一人の男をめぐっての争いが、この戦争を引き起こしたんだと!」
「うわ、マジかよ。俺ら小娘の痴話げんかに巻き込まれてこんな目にあってんの!?」
「くっだらねー! 人の命なんだと思ってやがんだよ!!」
「うわ、マジかよ。俺ら小娘の痴話げんかに巻き込まれてこんな目にあってんの!?」
「くっだらねー! 人の命なんだと思ってやがんだよ!!」
まだまだ最前線同士のにらみ合いのみで、本格的な開戦に至る前だったことも幸い(?)し、このようなばかばかしい理由を聞かされた両陣営。
やってられっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
…とばかりに。
兵士レベルで、戦争は瓦解。
何がなんだかよく分からないうちに両国同士でも休戦協定が結ばれ―――戦禍は未然に防がれたのであった。
何がなんだかよく分からないうちに両国同士でも休戦協定が結ばれ―――戦禍は未然に防がれたのであった。
嘘のような、ホントの話。
・
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……で、だ。
「あいたたたた…」
「……きゅう」
「……きゅう」
そんな戦場(だった場所)からはるか遠く離れたこの極東の地で……
俺の目の前でぱんつみせてひっくり返ってる、食パンくわえた二人の少女の存在が……
何の関係があるわけ?
ぷろくし・うぉーず!
「ケンタロ! 一緒に帰ろー!」
「いや、今日は私と一緒に帰る約束だ。そうだろう、健太朗殿?」
「いや、今日は私と一緒に帰る約束だ。そうだろう、健太朗殿?」
下校のチャイムがなったと同時に両脇から捕まる。どーでもいいがお前ら違うクラスだろうに。
とはいえ突っ込むだけ無駄なのでため息をつくだけにしておく。
とはいえ突っ込むだけ無駄なのでため息をつくだけにしておく。
クラスの連中はそんな俺たちを見て笑うか哀れむか羨ましがるか。たまに殺意こもった視線が来るのは地味に怖いから勘弁してくれ。
「特に約束をした憶えはないんだがなツバキ。あとマーガレット。腕にしがみつくな」
体重をかけて腕にぶら下がるちびっこにでこピンを打つと、涙目でうなってしぶしぶ解いた。
「……ま、特に予定もないし。3人で一緒にってことで」
残念そうな表情を向ける二人にそう声をかけると、とたんにぱあっと笑顔になる。
……やれやれ、現金なことだ。
……やれやれ、現金なことだ。
…いや、その笑顔にほっとしてる俺も大概か。
*
さわやかな風が吹き抜ける、夕方のポプラ並木を歩く。
「そういえば、ツバキは試合、もうすぐなんだよな」
隣でポニーテールの黒髪を揺らす少女に問いかける。
「ああ。いわゆるエキシビジョンマッチ…公式戦ではないのが残念だがな。だが、出るからには勝つ。そしてその勝利を…健太朗殿に捧ぐぞ」
「…わかったよ。応援に行くからな」
「そういえば、ツバキは試合、もうすぐなんだよな」
隣でポニーテールの黒髪を揺らす少女に問いかける。
「ああ。いわゆるエキシビジョンマッチ…公式戦ではないのが残念だがな。だが、出るからには勝つ。そしてその勝利を…健太朗殿に捧ぐぞ」
「…わかったよ。応援に行くからな」
そういうと、彼女は顔を真っ赤にして「いや、こなくて…いい」などと言う。俺へのアプローチは積極的なくせに、へんなところで恥ずかしがるのだ。
「むー…」
「ん? どうした、マーガレット」
「ん? どうした、マーガレット」
俺の制服の袖を掴んでぶらぶらとさせながら、傍らにいるもう一人の少女に声をかける。
“マーガレット”の和名をそのまま提案すると、うげ、と口をつぐんで首を横に振った。
「なんか水炊きの具みたい…」
「煮ても食えそうにないけどな」
「ぶー。どーせちびっこですよーだ!」
「煮ても食えそうにないけどな」
「ぶー。どーせちびっこですよーだ!」
ぷんすか、とばかりに頬を膨らませてみせるマーガレットであった。
・
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ツバキこと、カメリア。
そして、マーガレット。
そして、マーガレット。
この両者。実はさる大国の元首様のご令嬢。…まぁ、平たく言えば<お姫様>と呼ばれる存在である。
そう、冒頭で戦争を放棄されてしまった大国の、だ。
結局、あの噂を流した元凶は特定されず、やむを得ず休戦協定を結んだ元首様二人は頭を抱えてしまった。
無論、噂は所詮噂。真実なわけがない。だが、いまさら「嘘でした」とも言いづらい状況下。そこで二人が考え出した手が……
無論、噂は所詮噂。真実なわけがない。だが、いまさら「嘘でした」とも言いづらい状況下。そこで二人が考え出した手が……
「我々の娘を日本に留学させ、本当に恋人を作らせてしまおう」
…とまぁ、荒唐無稽もはなはだしいモノであった。
そして、食パンくわえさせてテキトーに誰かにぶつからせて、そいつに彼氏役をやらせようとして……俺にぶつかった、とのことだ。
さておき、そんなわけで彼女たちの「彼氏役」を演じる羽目になってしまったのが俺…大江健太朗なわけだ。
幸か不幸か、彼女らに気に入られて…こうやって毎日のようにラブコメじみた日常を送るようになってしまっている。
いつの間にか俺んちの両隣に豪邸をおったててそこに住むわ、毎朝のように寝込みを襲…もとい、お越しに来るわで、休まるときがありゃしない。
学校は学校で、教師連中も「下手したら国際問題になりかねないから」と彼女らの常軌を逸した言動をことごとく黙殺。全部俺に丸投げしてきやがった。
まぁ、決して悪い奴らじゃないし……ちょいとばかり…いや、かなりかわいいのだが。
最初はそれこそ常時俺にべったりだったのが、ここのところは部活動もやるようになったり、クラスメイトたちともそれなりに溶け込むようにもなってきた。
いい傾向だとは思う。
いい傾向だとは思う。
…いや、さびしい訳では決してない。ホントだぞ?
「……ね、ケンタロ」
「ん?」
「ん?」
と、いつもより幾分声のトーンを落として、マーガレットが俺の顔を覗き込む。
「パパたちがね、そろそろ答え出せって」
「…それって……」
「…それって……」
言わずもがなだろう。
ツバキか、マーガレットか。
演技とは言えど、決めなければならない。
「…あたしは、さ」
きゅ、と。
袖を掴む手に力がこもる。
袖を掴む手に力がこもる。
「ケンタロがどっちを選んでも、いいって思ってる。そりゃ、あたしを選んでくれたらうれしいし……もし、カメリアを選んだって、恨んだりしないよ」
「そ、それは私だって同じだ」
ぐっと拳を握って、ツバキも同意する。
「そ、それは私だって同じだ」
ぐっと拳を握って、ツバキも同意する。
「…やっぱ、選ばなきゃ、なんだよな……」
呟いた言葉が、秋の夕空にとけていく。
彼女たちが嫌いなんじゃない。むしろ………
「あー、悩んでる」
「…ったりまえだ」
「…ったりまえだ」
彼女たちは、どう思ってるんだろう。
噂を真に受けて、こーやって日本くんだりまで来て。たまたま彼氏役になった俺といっしょにいて。
噂を真に受けて、こーやって日本くんだりまで来て。たまたま彼氏役になった俺といっしょにいて。
場合によっちゃ、俺と…その…結ばれ…たり? するわけで…
でもそれって、親の都合だ。
そこに彼女たちの意思は、介入していない。
「……二人は、さ」
「ん?」
「なんだ?」
「なんだ?」
「…俺なんかで、いいわけ?」
その問いに、二人は一瞬きょとん、となる。と、どちらからとも無く噴出し、ころころと笑い出した。
「…わ、笑うなよ! 俺はまじめに…」
「ご、ごめんごめんケンタロ」
「いや、そうだな。真面目な話だ…すまん」
「いや、そうだな。真面目な話だ…すまん」
でも。
と二人の声がハモる。
「健太朗なんか、じゃない」
「あたしたちは、ケンタロだからいいの」
「あたしたちは、ケンタロだからいいの」
ふわり、と微笑んで。
ふたりが、そう言う。
ふたりが、そう言う。
「―――!」
その笑顔に、知らず俺の胸が高鳴って。
熱くなった顔を悟られないように、俯いて小走りに駆け出す。
「あ、逃げた」
「ま、待て健太朗殿! 言わせておいて逃げるな!」
「ま、待て健太朗殿! 言わせておいて逃げるな!」
そんな俺を追いかけ、腕をがっちりと掴むツバキとマーガレット。
「ねえねえ、ケンタロ?」
「どうせなら…二人とも選んでみるか?」
「どうせなら…二人とも選んでみるか?」
柔らかな胸をぎゅっと押し当てながら。
二人が、いたずらっぽく笑った。
-fin-
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勢いで書いた。だが私は謝らない。
久々にオリジナルで掌編が書きたくなったので。
でも、ネタ考えてるうちに「これなんてギャルゲ?」みたいなノリになってきた。
ひょっとしたら、これベースにギャルゲのシナリオやるかも。
…かも。
ええと、恋愛シミュレーションツクールはどこにしまったかな…?